小倉は、渡部を見つめて言った。
「なあ渡部、俺見ちゃったんだよ。お前がユイちゃんと腕組んで歩いてるの」
予想通り、この言葉に辻と高田は椅子から転びそうな勢いで驚き、口々に「嘘だろ」、「なんでお前が」、「なんだよそれ」とひとしきり責め立てた。
渡部本人は、驚いた後に申し訳なさそうな表情で「いや、実は……」と落ち着いた口調で話し始めた。
「お前らがあんまり言うから、どんな子か気になって広報部に行ってみたんだよ。そしたらユイちゃんがちょうど、俺の同期と仲良さそうに話しててさ。俺もその中に入って、一緒に話したんだよ。で、その3人で飲みに行くことになって……まあ、そんな感じだ。あ、でもそれ以上はないからな!」
最後は語気を強めて言った。
小倉がさらに続きを聞こうとすると、辻が割って入るように、少しだけ大きな声を出した。
「実はさ……」
その声に3人は一斉に、辻に視線を向ける。
「俺も、ユイちゃんと二人で食事に行ったんだ。別に、食事に行くくらいルール違反じゃないよな?その帰り、ユイちゃん、俺に腕まわしてきたんだけど」
一番反応したのは高田だった。
「待ってくれよ、俺もまさに同じ事されたんだけど?!しかも”今夜は...たった一人の人に巡り逢えたような気がする...”なんてドラマの台詞みたいなこと言われて、潤んだ瞳に上目づかいで見つめられたんだぞ」
むきになって話す高田を見て4人は視線を交差させた後、大声で笑い始めた。
「なんだよそれ、ユイちゃんって誰でもいいワケ?そんな子だったの?」
「ただの真性港区女子じゃないか」
「俺たちF4が、彼女の手玉に取られてたってワケ?」
そう言って、思い思いに自分たちの体たらくを嘆いた。
「でもさ、俺たちはまだいいけど、渡部。お前既婚者だろ?」
辻が詰め寄ると、渡部は申し訳なさそうに「そうなんだけどさ……ただ3人で食事に行っただけのはずが、彼女がやたらと積極的だったんだよ」と必死に弁明した。
結局、ユイがとんだ食わせものだったという事で話は落ち着き、クリスマスレースの話ももちろん立ち消えとなった。
「散々色んな女性を見てきた俺たちが、まさか全員ひっかかるなんてな。ユイちゃん恐るべし」
小倉は呆れながらも楽しそうに言った。
「もしあのままクリスマスデートを申し込んでたら、俺たちどうなってたんだろうな」
「ユイちゃんなら時間差で全員とデートするんじゃないか?もちろんプレゼントもきっちり受け取って」
辻の言葉に、全員が声を揃えて笑った。ユイならそれくらい簡単にやってのけるだろうと思えたからだ。
「せめて社外でやってくれ!本当に、そんな悲惨なクリスマスにならなくて良かった。悲惨なクリスマスなんて人生に一度で十分だよ」
そう言って嘆く高田を見て、全員がまた笑った。高田の“悲惨なクリスマス”こそ、彼がF4のメンバーになるきっかけだったのだ。