「妹なんだ」
亮介は大きな声で、ぴしゃりと言った。だが、美加だって負けずに反論する。
「だから、そんな見え透いた嘘が通るとでも思ってるの?」
「でも本当に妹だから……」
力なく言う亮介を見て、美加は急に怒りの炎が消えるのを感じた。
「え、ほんとに?」
一瞬にして冷静さを取り戻した美加が、亮介と隣の彼女の顔を交互に見比べると、確かに目元と鼻の形が似ているようにも思う。
「ほんとに?」
つい、もう一度聞くと二人は同じタイミングでコクリと頭を上下させた。
「えー、妹さんだったの?!早く言ってよ!失礼なことを言ってしまってごめんなさい!」
妹の方に身体を向けて、勢いよく頭を下げた。
「そんなー、大丈夫ですよ~」と言われるが、美加はすぐに頭を上げる事ができない。
謝罪の気持ちもあるが、自分のみっともない姿を二人に見られたことがショックで、恥ずかしくて顔を上げたくないのだ。
いっそ頭を下げたまま後ずさりして、そのまま二人の視界から消え去りたいくらいだ。だが、そんなことはもちろんできず、美加は渋々頭を上げた。
「みっともないことしちゃって、ゴメンナサイ」
改めてもう一度謝ると、亮介は呆れたように苦笑いを浮かべ、妹の方は楽しそうに笑っていた。
「初めまして、妹の由梨です」
自己紹介され、美加も慌てて名乗った。だが、亮介とはケンカ続行中の美加。「お付き合いさせていただいてます」とは言えず、なんだか中途半端な自己紹介になってしまった。
そんな葛藤なんて由梨は気付くわけもなく、「ちょうどこれからお茶する所なので、美加さんも一緒にどうですか?」と聞かれてしまった。
亮介を伺うと、欧米人のように両方の眉を上げながら肩をすくめた。彼なりのOKというサインだ。
◆
三人で近くのカフェに入ると、美加はあらためて二人に謝った。頭を下げる美加に対して、由梨は顔の前で左右に大きく手を振り明るく答えた。
「そんな、気にしないでください!それに、あんなに怒るのはそれだけお兄ちゃんを好きでいてくれてるって事ですよね?」
屈託のない笑顔を向けられ、美加は自分の顔が赤くなるのを感じた。
「まあ、それはそうだけど……」
赤い顔で口ごもる美加を見て、由梨は「美加さんって面白―い」と無邪気にはしゃいだ。亮介の『彼女』という存在に対面するのは初めてらしく、テンションが上がっているようだ。
「美加さんってオシャレだし、肌も髪もキレイですね。お兄ちゃんには勿体ない!」
由梨は美加の事を気に入ったようで、美加に次々質問を投げてくる。亮介を差し置き、二人で盛り上がっている内にインスタのアカウントも教え合った。
「あ、シャンプーこれ使ってるんですね。私も気になってたんだー。しかもこれ、期間限定のアップルジンジャーだ!」
そう言って『ヘアレシピ』が映った美加のインスタを見ながら「美加さんの髪キレイだから、私も使ってみよー」と楽しそうに呟いた。
美加は由梨と楽しく話しながらも、亮介の方をチラリと何度か見た。彼はこの状況をどう思っているのか、そればかりが気になるが、由梨の前で聞く事も出来ない。
思い返してみると、由梨と話してばかりで亮介とまともな会話はまだ交わしていない。
ーやっぱりまだ怒ってるよね……。
美加の中で、不安は大きくなるばかりだった。