これが商社マン人生をかけて、僕が体を壊して、人を蹴落とそうとしてまで欲しかったものなのかしらと。
人間というのは欲張りな生き物なのかもしれません。
僕の人生ゲームの結末は、やはり僕らしく地味なものになりました。
役員の椅子を手に入れれば、最後の大逆転が待ってる!
そう信じて“最高峰”を目指してきましたが、まさかこんなに地味なままなんて。
「変わりましたよ」なんて自信満々にいいましたが、変われない部分もありますね。
200人もいた同期の中には、辞めていく者も少なくありませんでした。拓哉のように華々しい転職を遂げた者、ハードワークに耐えかねて早々に出世競争を離脱した者、中には体を壊してしまった同期も…生き方は様々です。
拓哉のように総合商社の看板を下ろした男たちが、その後どんな人生を歩んでいるのか気になるところです。
拓哉といえば、40代半ばの頃に会って以来音沙汰なし。もう10年近く会ってないということですね。まだ二子玉川で雑貨屋を経営しているのでしょうか。
おそらく、また違う事を始めているような気がします。もしかしたら、日本にはいないんじゃないか……なんて思わせてくれるんだから、拓哉という男は凄いですね。
僕は、僕の生き方なりの“最高峰”を築くことができました。拓哉もそうであってほしいと思います。本当ですよ?確かに昔はライバル心を燃やしていましたが、今となっては互いの健闘をたたえあいたいと思っています。
“最高峰”を掴んでなお、挑戦は続く
結局のところ、僕といえば元来働き者だからでしょうか。現場から離れて、少し暇を持て余しています。役員定年までまだだいぶありますが、息子が大学を出て、稼ぐ必要がなくなった頃にはリタイアしたいと思っています。
リタイアして何をするかって?
もちろん新たな“最高峰”を見つけるためですよ。
最高峰って実はキリがなくて、そこに到達したら、こんなものかと思ってしまうんです。人間欲深いものですね。
そして今僕には次の最高峰を目指すエネルギーが新たにみなぎっています。
こういう挑戦を繰り返さなきゃいけないのが人生だというならば、望むところです。
次の峰は、踏破した峰よりももっと高いはず。
こうして僕は人生が終わる、その時まで”最高峰”を目指し続けるのかもしれません。未だ見たことのない高みを目指して…!
(fin)