軽井沢の冬 Vol.2

軽井沢の冬:眩い都会で見失っていた電機メーカーの男という光

透も完璧じゃないけど、私だってぜんぜん完璧じゃない。


「なるほど。確かに彼はちょっと頼りなさそうだけど、」

加奈の話を聞いた後、美希は躊躇なく言った。

「でも加奈ちゃん、それ以上高望みすると売れ残るわよ。」

加奈は危うく蕎麦を詰まらせるところだった。ごほごほとむせながら、慌ててお茶をすする。お嬢様は遠慮というものがない。

「加奈ちゃん一般的にモテるタイプの美人じゃないし・・・あ、私はこけしちゃんみたいで可愛いと思うけどね。かつ狙いを定めてゲットしにいく計算高さもないから今まで独身だったのよ。」

「美希さん、相変わらずキツイですね・・・」

美希の言うことは失礼極まりないが的を得ている。透と出会った食事会でも、透以外は武井咲似の長身美人・亜美に夢中だった。

代理店の彼氏に浮気された時も、相手の女から別れてくれと言われるまで全く気が付かず、自分の勘の鈍さに愕然としたのを思い出す。

34歳、独身の損保OL。ビジュアルは中の上で、恋愛戦闘力低め。それが加奈の婚活市場における客観的価値である。これといった特技もなく、好き勝手独身貴族を謳歌してきたから大した貯金もない。

加奈は急に弱気になってきた。透も完璧じゃないけど、私だってぜんぜん完璧じゃないのだった。でもだからこそ結婚して2人で補い合う意味があるのかもしれない。

「さ、温泉でも入って帰りましょうか。」

急に寒気を感じて身震いする加奈を尻目に、美希はまったく悪びれた様子もなくマイペースに立ち上がり、さっさとお会計を済ませて歩き出した。


『星野温泉とんぼの湯』で美希と一緒に露店風呂に浸かりながら、ふと空を見上げた加奈は歓声を上げた。

「わ、すごい星!プラネタリウムみたい!」

秋深まる軽井沢は、星の瞬きまで確認できるほど空気が澄んで美しい。標高1,000mから見上げる星空は東京よりとても近く感じられ、手を伸ばしたら掴めそうな距離に感じた。こんなに無数の星が頭上に輝いていたなんて。

満天の星空を眺めながら、加奈は透のことを思い出した。

プロポーズの返事に詰まる加奈を一切責めることなく「あれ?俺ちょっと早まっちゃったらしい。」と言って笑いに変えてその場を取り繕ってくれた。

加奈がたまに作る手料理はだいたい失敗していたけど、「オリジナリティを感じる。」などと言っていつも全部食べてくれた。

そういう透の良さを、要らぬ雑念に囚われて見失ってしまっていた気がする。

「都会は、他の光が強すぎるのよね。」

隣で呟いた美希は、星空のことを言ったのだろうか。

明日東京に戻ったら透に会いに行こう。満天の星空に、流れ星が2つ走るのが見えた。

次週10月29日土曜更新
決められない病のアラフォー男、美希のひと言で改心する?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

Pencilコメントする

コメントはまだありません。

【軽井沢の冬】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo