2015.06.20
SPECIAL TALK Vol.9既定路線に捉われず常に攻めの発想を持つべき
金丸:いま、改めて振り返ってみて、あのときの経験は生きたな、と感じられることはありますか?
片野坂:やはり、経営企画部にいた頃の経験は貴重でしたね。ちょうど世界各国に路線を広げていたときだったので、アメリカや中国、オーストラリア、ヨーロッパなどを飛び回っていました。経企にいた5年の間に、世界各地を自分の目で見て回れたことは、いま私が社長になり、「もっと国際線を拡充すべきだ」と考える原点になっていると思います。
金丸:どの都市に就航するかを検討する際、何が評価のポイントとなるのでしょうか? その評価軸のひとつに、某建設機械メーカーが現地に進出しているかどうか、があると伺いました。そのメーカーの機械がある場所は、将来の成長が見込まれるからだと。
片野坂:それは一理ありますね。要するに、単純な目先のデータから判断するのではなく、将来を予測する力が必要なのではないかと思います。国際線のネットワークは、旅客者数などの過去のデータを見ても、新しい可能性やポテンシャルは発見できません。その国の政治や経済、貿易の動きから10年先の未来を読み解き、ANAの成長につながる路線を開拓していかなければならないと思っています。私は4月の社長就任記者会見のとき、10年プランを発表しました。その翌日の新聞に「将来はアフリカ、南米、中央アジアに新路線」と大きな見出しが躍りまして、まわりに驚かれました。
金丸:リスクの高い「空白地帯」ばかりに、と思われたんでしょうね。
片野坂:私は別に大ボラを吹いたわけではなく、オリンピックのさらに5年後ぐらいには、いま現在は直行便のないアフリカや南米、中央アジアにも飛んでいたい、と伝えたかったのです。たとえば現状だけを見ると、アフリカはエボラ出血熱やテロの危険性など、ほかの地域に比べて確かにリスクは高いと思います。ですが、考えるべきなのは、いまのリスクではなく、未来のポテンシャルなのです。特に最近西アフリカには電機や自動車、食品など多くの日本企業が進出しています。現地では、工場を建設し、生産、販売もしています。中国やインドがそうであったように、アフリカもおそらく10年後、20年後には目覚ましく発展しているでしょう。将来のことを見据えて、常に攻めの姿勢を持ち続けたいと思います。
金丸:中長期的な視点で物事を見ることや、思考の幅を広げることは、とても大事だと思います。
片野坂:そういう意味で、若狭社長は非常に先見性のある方でした。初めての国際線をどこに就航させるかを社員みんなで議論したとき、大半がドイツやオーストラリアなど先進的な場所を選ぶなか、若狭社長は当時から、アフリカや南米に飛ばすべきだと仰っていました。国際線を就航させたばかりのときに、まだ発展途上にあった国々をあげるというのは、流石だなと感じます。国際線事業の拡大はANAの成長戦略の柱です。若い社員には広い視野で、10年先はどの国が伸びているかを考え抜いてほしいですね。というのも、いまの若い人たちは、石橋を叩いて渡ろうとする傾向が強いように思います。自分がやってみたいこと、自分がまだ知らない領域にもっとチャレンジしてほしい。今後もハッパをかけ続けます。
金丸:国際線の拡大路線を積極的に進めたいと考えるようになったのは、何がきっかけだったのですか?
片野坂:二代目の岡崎社長のお話を伺ったことが大きいですね。1960年代に社長をされていた方なのですが、中国との親交が深く、友好関係の構築に非常に尽力されました。私が若手で本社勤務だったとき、新年会にお見えになり、年頭挨拶をされたのですが、当時90歳近かったにもかかわらず、しゃんとした姿勢で立ったまま、50分にわたり熱弁を振るわれました。そして、今後日本はヨーロッパにも飛ぶだろうが、中国を経由して行くべきだ、と言うのです。当時ヨーロッパへは、アメリカのアンカレッジを経由し、シベリアの上空を通るルートが常識でした。シルクロードを経由するルートは遠回りすぎて、検討すらしませんでしたし、中国にはまだ北京にしか路線がない時代でした。それでも岡崎社長は、中国を経由すれば、資源が豊富なカザフスタンや中央アジア、ウズベキスタンを越えていける、それが日本の発展につながると強調されました。まさに常識にとらわれない、先見の明のある経営者からの呼びかけであり、とても心に残っています。
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