2016.09.07
秘書の秘め事 Vol.1優雅さとはかけ離れた、接客業の実態
ラグジュアリーブランドの販売員の仕事は、優雅に湖に浮かぶ白鳥が、水面下で醜く必死で水かきをしているのと同じだ。
ミドリはかつて、自分は接客業に向いていると思っていた。しかし実際に働いてみると、高級ブラント店は、想像を絶する程の、おかしな客で溢れている。
上顧客の暇つぶしの世間話や我儘に何時間も付き合うこともあれば、今日のように大勢の外国人観光客がゲリラ的に押し寄せ、店を荒らしていくことも日常茶飯事。
かつてのミドリのように、目を輝かせて憧れのブランド品を買いに来る純情な若い女など、ほんの一握りだ。そして、売上目標に追われ、疲れ果てる日々。
「私、接客業には向いていないんだ...。」
この数年間、ミドリは何度も自己嫌悪に陥った。嫌な客に対して、顔が引きつるのを隠せないことは、自分でも辛く、心が荒んだ。
「好きな人の接客だけできる仕事って、ないのかしら...。」
近年ミドリは、そんなことばかり考えていた。
ミーハー心を刺激する、エグゼクティブ秘書への転職の誘い
そんな最中、ミドリはヘッドハンターから連絡を受けた。「ペイン&カンパニー」という外資系コンサルティングファームで、エグゼクティブ秘書を募集しているというのだ。
この会社名に聞き覚えはなかったが、知人何名かの情報を得たところ、どうやら少数精鋭の超優秀な人材を集めた、業界ではかなり名の知れたコンサル会社らしい。
提示された給与は驚くほど高額で、しかも勤務地は、OLの聖地、丸の内であった。
「え、村上さんの秘書のお声がかかったの?!」
外銀マンの友人は、このヘッドハントの話を聞くと、興味深そうに食いついた。上司となる予定の「村上」という名のパートナーは、業界では有名人らしいことも、ミドリのミーハー心をくすぐった。
「仕事はモチロンだけど、見た目も芸能人みたいだよ。あれは男から見てもカッコイイね。今どきファンクラブみたいのもあったらしいし、若い頃は、“王子”って呼ばれたらしいよ。」
ヘッドハンターがミドリをこのポジションの候補者の一人として声をかけた理由は、それなりの英語力と(ミドリは留学経験がある)、ラグジュアリーブランド勤務の経験だそうだ。
また、なるべく若く、秘書経験のない、柔軟な人材を探しているらしかった。和風美人のミドリは秘書として見栄えも良いし、基本的なマナーや言葉使いも、求められた条件としては理想通りであったらしい。
ミドリはちょうど29歳。30歳の節目を目前として、思い切って転職をするならば、絶好のチャンスだった。
思い込みの激しいミドリは、そうと決めて必死の転職活動に励んだ結果、話はとんとん拍子に進み、見事に「ペイン&カンパニー」に内定した。
優雅な表参道勤務とサヨナラするのは少々寂しかったが、販売員としての仕事に未練は、自分でも不思議なほど皆無だった。
―そんなことより、新しい人生の始まりだわ。
ミドリは、この年齢で外資コンサルの秘書という転職を成功させた自分に、大満足をしていた。
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