人は、「秘書」という仕事に、どんなイメージを持つだろうか。
社内を彩る女性らしい花形の職業、腰掛OLのような楽な仕事?もしくは単なる雑用係?それとも......?
女としての細やかな気遣いやホスピタリティが試される、秘書という仕事。そして、秘書たちの視点から見る、表舞台で活躍する男たちの裏側とは...?
秘書という職を得て、丸の内OLというオシャレな肩書きに多大な期待を抱き、転職を決意したミドリ、29歳。
その奮闘記が今始まる...!
質の良い滑らかな皮に、ベッタリとついた外国人観光客たちの指紋を拭き取りながら、ミドリは苛立つ気持ちを隠せずにいた。
もう、本気で限界だ。こんな接客業は、懲り懲りだ。
ミドリは新卒で大手外資系ラグジュアリーブランドに入社し、販売員として働いていた。この業界は女にとって花形の職業の一つであったし、ミドリは純粋に、昔から高級ブランドが大好きだった。
誕生日や記念日のために、両親や恋人にねだり、手に入るブランドバッグやアクセサリー。
それを手に入れ身に付けることは勿論だが、表参道や銀座に羅列する路面店で、いざお目当ての品を購入するときの高揚感と言ったら、女にとっては至福のひと時ではなかろうか。
そして、その傍らに立つ販売員の優雅さ。決して客に下手に出るわけでもないのに、彼らの気遣いや知識、サービス精神は完璧だ。
社会人になり、ただのOLとしてパソコンに向かい合うよりも、好きなものに囲まれ、高級感のある空間で優雅に働きたい。ミドリは長年、そんな夢を抱いていた。
しかし、そんな理想は、研修を経て間もなく、すぐに打ち砕かれた。
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