ほんの1,2杯のつもりだったのに
その日は、ランニングのせいでお酒がまわりやすかったのかもしれない。ほんの1、2杯しか飲んでいないのに、いつになく体がふわふわした。酔いが回りはじめた麗子はすっかり楽しくなり、お酒を飲むピッチが自然とあがっていた。自分でも気がつかないうちにすっかり出来上がり、記憶が飛び飛びに……
最後の記憶は、オーナーと常連さんと3人で赤ワインを乾杯したこと。ものすごく爆笑した記憶はあるけれど、何を話したかは覚えていない。
気がついたら、その常連さんと朝を迎えてしまっていた。
相手はお店の顔見知り。前から何度か声をかけられたことがある。いい人そうだけど、ちょっとダサめ。普通のス―ツに普通の時計、顔も身長も会話も普通な、まさに「Mr.アベレージ」というところ。しかし、麗子を落ち込ませたのは、相手のスペックではなく、彼があの店の常連だということだった。
「行きつけのお店の人とはそういう関係にならない」というのは、麗子のモットーなのだ。
◆
あれから一週間。オーナーのLINEによると、「塚田さん(名前は憶えてないけど、Mr.アベレージくんのことだろう)、毎晩お店で麗子ちゃんのこと待っているよ」、とのこと。最悪。この分だと、オーナーも事情を知ってるに違いない。
その気がないってはっきり伝えたのに、どういうつもりなんだろう。お気に入りのバルなだけに、一夜の過ちで失うのは残念すぎる。あぁ、おいしいモヒート飲めなくなっちゃうじゃん。しばらくは近づかないほうが良さそうだなぁ。
そうだ、久しぶりに新規開拓でもしてみよう。こないだ代官山でお買い物途中に見つけたお店、気になってたんだ。今夜はさっさと切り上げて覗いて見よう。
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