広告代理店にはびこる、「チャラい」「遊び人」のイメージ。
広告代理店勤務の正社員女子たちにとって、代理店への先入観はレッテル以外のなにものでもない。
職業病からか、飲みの席ではいつも場を盛り上げることに必死で、「ノリが良い」の一言で片付けられる。本命レースからは早々に離脱し、挙句の果ては男性から衝撃の一言をかまされる。
「実際、月いくらもらってんの?」
東京市場で肩身の狭い思いをしている、代理店女子。彼女たちの葛藤を覗いてみよう。
残業に疲れ、何気なくスクロールしていたInstagramのタイムラインに、知った顔が飛び込んできた。高校時代の親友たちが楽しそうに食事をしている。六本木にある『サカナバル グリル』に一緒に行こうと前々から約束していたが、今日はどうしても仕事の調整がつかなかった。
ハッシュタグにはご丁寧に「#今度はマリアも」という慰めの言葉が添えてあり、余計惨めになる。Instagramなんて開かなければよかった……
一向に減らないタスクが書かれたPC縁のポストイットに、視線を戻した。
◆
マリア、29歳。大手広告代理店勤務、7年目。エンタープライズ営業部所属。
初任配属は念願のクリエイティブ部で、コピーライターとしてキャリアをスタート。自分のコピーが業界紙「アド・ミーティング」に初めて掲載された時は、嬉しさのあまり雑誌を買って実家に帰ったものだった。
まさに軌道に乗り始めたと思っていた矢先、入社4年目の夏に大きな転機が訪れた。
「お前、来月から営業に異動な」
青天の霹靂だった。代理店において、クリエイティブからの異動が意味するものは、左遷に近い。私の解釈では、「私のクリエイティブセンスに会社が見切りをつけた」ということ。
営業に異動後、私は大手ゲーム会社を担当する事になった。スマホのゲームアプリが売上好調とあって、ここ数年担当者を増員して体制を強化。社内では激務で有名なチームだ。
クリエイティブ時代とは全く違う、迅速な応答と判断が求められる仕事に最初は戸惑った。絶えず押し寄せるメールの嵐を裁くだけで精一杯なのに、日中電話は鳴りっ放し。
あっという間に1日は過ぎ、終電で帰れない日が続くことも珍しくはなかった。そんなマリアに追い打ちをかけるように、先輩からはとどめの一言。
「こんな企画書しか書けないんだったら、会社辞めたら?」
コピーライターに憧れて、この会社に入った22歳の私に、今の姿はどう映るだろうか。
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