今月紹介するメガヨットは、2008年に進水した「プレデター」号だ。2008年ということは、私がこの連載を始めるもっと前に進水したということになる。このヨットは他のどのヨットとも比べ物にならないくらい格別に好きなヨットで、毎回このヨットを目撃するたびに私は子供のようにはしゃいでいた。
「プレデター(Predator)」の意味は「捕食者」。シャチやワシ、トラなどが動物界トップレベルの「プレデター」、究極のパワーを持つクールでエキサイティングな野獣だ。このヨットを見事に表わしている。
昨年の夏、フランスはアンティーブに寄港中のこのヨットを訪れる機会を得た。スリークでアグレッシブな外観、特徴的な「アックス・バウ(Axe Bow)」デザイン、そして4基のエンジンによって73mの巨体が凄まじいスピードで走る姿には誰もが魅了される。
プレデター号の歴史は、オーナーと後にこのヨットのビルダーとなるフェドシップとの最初の話し合いから始まる。フェドシップに与えられたチャレンジはなかなか難しいものだった。オーナーの希望は、70m以上の大きさで25ノット以上のクルージングスピードを出すヨット。しかも、更にこのオーナーは、この大きさのヨットでこのスピードを出すのに通常用いられる「ジェットドライブやガスタービン」は嫌だという。
オーナーの希望を満たすには、船体設計を徹底的に見直す必要があった。そこでフェドシップがこの「アックス・バウ」デザイン構想を提示したところオーナーは即座に気に入り、プレデター号建造プロジェクトが開始となったのだ!
もちろん、スピードを出すもう一つの可能性のある考えは重量だ。そのためにはインテリアデザインと素材を非常に軽いものにしなくてはならない。一つの部分を数グラムずつカットしていけば、最終的にはかなりの重量をセーブできる。しかし、船内を歩いてみても微塵もそれを感じさせない。それもまた素晴らしい。
大型ヨット操船歴35年以上のキャプテンが案内してくれた。素晴らしいことにこの73mのヨットには、広々としたマスターステートルーム1室とこれまた広大なVIPルームが2室あるのみ。たった6名のゲストだけが泊まれるように設計されているのだ!
オーナーのエリアは非常に広大だ。オフィス&書斎スペースにラウンジエリア、それに加えて広々としたステートルーム、そしてバスルームとドレッシングルーム、クローゼット。ステートルームの両側には床から天井までの大きな6枚の窓、これがいっそう部屋を広く感じさせる。オーナーズスイートの後方には2室のVIPステートルーム。この二部屋もそれぞれ美しく設計され、非常に広々とした空間となっている。
船内を歩きながらキャプテンにこのヨットのパフォーマンスを聞いてみた。それによると、キャプテンがこれまで操船してきた船とは格段に違うという。「5mのうねりがある海上でも、このプレデターは問題なく進む。V字の船首というのは波に入る時少々上がるが、基本的には波を切るように進む。船首が叩くこともなく、4mまでのうねりだったら、真平らな海面を走っているのとなんら変わりのない走りをする。縦の動きがないことが、このプレデター号を驚くほど快適なヨットにしてくれる。水しぶきも衝撃も、上下の揺れもない」。
そして、それだけではないとキャプテンは続ける。「ノイズや振動、スピード、操作感など、全ての基本的なスタンダードが期待した以上に出来上がっている。2基のエンジンのみ使用した場合、1,500rpmで平均20ノット。そのスピードでも私がこれまで舵を握ってきた他のヨットとは比べ物にならないくらいスムーズに走る。4基全てが1,800rpmの状態では、燃料の量と海上のコンディションによるが27 ~ 28.5ノットは出る。これは凄いことだ!」。