こじらせマン Vol.1

こじらせマン:高スペックな敏腕プロデューサーのエキセントリックな結婚条件とは!?

赤文字系はNG! 一般男性とは一味違う亮太の恋愛観


言わずもがな、亮太はモテ男である。芸能界に憧れを抱く若手のミーハー女子にはなおさらだ。先日デートしていたというそのスッチーも彼の輝かしいスペックに惚れこんだ1人である。

「いつの話だよ。そんなのもうとっくに終わったよ。ちょうど特番で忙しくしてたときだったから、返信ないだの、いつ会ってくれるのかだの、責められ続けて面倒くさくなっちゃったんだよね。」


「でた! こじらせ男子!」

絵美里がささみのカツが刺さった串で亮太の顔を指す。

「はい、こじらせ男子ですけど、なにか?」

いたずらを企む少年のような顔で、すかさず亮太が返してきた。大抵のこじらせ男子が、自分のそのこじらせ具合に気づいてないのに対し、亮太はそんな自分を達観し、なんなら受け入れてさえいる。さすが、様々な人種が集まるマスコミ業界にいるだけのことはある。これは平均的こじらせ男子よりも、さらに厄介な類かもしれない…。

そもそも“こじらせている”というのはどういう状態なんだろう。亮太の話を片耳で聞きながら、絵美里はスマホで検索してみる。辞書には「拗らせる=物事をもつれさせ、処理を難しくする。面倒にする。」と記載されている。

なるほど、そういうことならおそらくこじらせ男子とは、“独身をこじらせている男子”を指すのだろう。

全国の男性平均結婚年齢が32歳を超えるこのご時世、世間的に「あの人こじらせてるよね」とウワサされてしまう男性の年齢は、大体35歳オーバーだろう。わずかなニュアンスの違いではあるが、それなら“こじらせマン”の方がなんとなくオッサン感が出てしっくりくるな…。絵美里はぼんやりとそんなことを考えていた。

「でもこの前話してたときは、結構気に入ってる感じだったじゃん! なんでいつもそんな回転早いわけ?」

開き直る亮太に、少々強めに詰め寄ってみる。

「まぁね、若いのになかなか話せる子だったから最初はいいなと思ったんだよ。でもさ、やっぱ服装がな~。俺、基本的に赤文字系NGだから。みんな履いてるふわっとしてるスカート、ダメなんだよね。それに周りにもさ、『スチュワーデスは亮太さんぽくないです』って言われて、なんか一気に冷めちゃったんだよね。」

薄々予感していた通りの答えが返ってきて、絵美里は若干楽しくなってきた。

「まるで女性を自分のアクセサリーのように外見で判断する。」これはなかなか結婚しない男性の特徴としてよく挙げられる。しかし亮太の場合、この部分でも一般的な基準とは少々事情が違う。

いわゆる“赤文字系”とはコンサバなモテファッションを得意とする20代の女性を指し、東京にいる婚活女子人口の半数以上を占める。そして適齢期の男性の多くは、そういった服装をしている女性を好む、という非常にわかりやすい仕組みが出来上がっている。

そういった種類の女性に全く興味のない亮太は、ファッションも性格ももっと個性的でトガった女性に惹かれる。“家庭的かどうか”、“周りから見て美人かどうか”そんなことは彼にとってはいわばどうでもいいことなのだ。そのことを知っていた絵美里は、モテ女の代名詞である“スッチー”という響きに、最初から違和感を覚えたのだ。

「他人に言われて冷めるなんて、中学生の恋愛じゃあるまいし…。そもそも彼女いない歴もう何年になるっけ?」

「ちょうど3年くらいかな…。あれっなんか同情してない? 言っとくけど、俺全然寂しくないよ、自分で言うのもなんだけどそれなりにモテるしな(笑)。デートする相手には困ってませんから。」

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