「もうあんな思いはしたくないの。だから、結婚前提だと約束できるならもう一度付き合う。」
そう言うと、篤志はすぐに「もちろん、そのつもりだった」と返してきた。「本当に?」と彼の顔を覗き込むと、まっすぐに見つめられ彼は無言でこくりと頷いた。
彼のことを完全に信用して良いのか半信半疑だったが、その日から半年後に彼からハリーウィンストンのトラスト・リングを贈られ、プロポーズを受けた。香織には何の迷いもなかった。
半年間じっくり向き合って付き合う中で、彼への信頼と安心感は揺るぎないものとなり、ずっと一緒にいたいと心から思えたのだ。
◆
2016年初夏の大安、香織はウエディングドレスを着て『アンダーズ東京』にいた。いよいよこれから、彼との結婚式を挙げるのだ。
窓の外には篤志が住んでいた愛宕グリーンヒルズが見える。香織も10年前、幾度となく訪れた場所だ。フォレストタワーを見下ろしながら、彼と永遠の愛を約束するとは、なんと言う因果だろうか。
彼と出会ったのも、彼の現在の住まいである六本木ヒルズレジデンスC棟と並んでそびえ建つ、B棟のスカイラウンジだった。
すごろくでいうとまるで「ふりだしに戻る」を食らったような感覚だが、同じ相手と同じ場所にいても、あの頃とはまるで状況が違う。あの頃の自分に「篤志と結婚するよ」と言っても決して信じてはくれないだろう。
まだ若く世間知らずで、「東京らしい恋愛」に憧れていた当時。今となっては「東京らしい恋愛」なんて、いかにも田舎から出てきてた女の子が言いそうなセリフだと、当時を思い出して恥ずかしくなる。
そんな感慨にふけっていると、式場のスタッフに呼ばれ、ゆっくりと椅子から立ち上がる。香織は長いトレーンを整えてもらい、一歩一歩この10年を噛み締めるようにゆっくりと歩いて、家族と友人、そして篤志が待つチャペルへ向かった。
こうして、香織の10年に渡る、付き合ったり関係を持った男はなぜかみな日比谷線沿いに住んでいたという、東京恋愛放浪は終わりを迎えた。
完





この記事へのコメント
どんなときもお仕事コツコツ続けてたっていうのが幸せの秘訣かな。