女優とディナー Vol.6

女優とディナー:筧美和子を鮨屋で本気で口説いたらこうなった!(1話読み切り)

そして会食当日。『ヴィーナス誕生』の頃よりもさらに大人の魅力を兼ね備えていた筧美和子のオーラに圧倒されそうになったのですが、

「彼女はワサビが食べられない子どもなのだ……」と自分に言い聞かせて精神の平衝を保ちながら、彼女を鮨屋の中に案内しました。

しかし、ここで予想もしなかった事件が起きました。大将が突然こんなことを言い出したのです。

「筧さん、私あなたのお父さん知ってるよ」

そう――三宿出身の筧美和子のお父さんと大将が知り合いであり、彼女と大将の間で「ジモティートーク」が開始されてしまったのです!

こうして、知らない単語が飛び交うのを、まるでテニスのボールボーイのように無言で眺めるしかなかったのですが、その後、最悪の事態が起きました。大将が握りの前の刺身を出す時にこう言ったのです。

「筧さんはサビ抜きだよね」

大将、それ俺が言う予定の台詞だからー!

頑固そうな大将を前にした筧美和子が「私、実はワ……」の「ワ」のときに「僕が先に言ってサビ抜きOKもらってますんで!」と言って大人の自分をアピールする予定だったわけだから!

なぜ、それ先に言っちゃう?日本で数人しかできない「本手返し」ってまさかこれのことじゃないですよねー!?

こうして「事前サビ抜き理論」が完全に空ぶりに終わった私は、お刺身から握りに移ってからも「本当においしいですね」「いやお鮨、本当においしいですわ」という、クソ下手な食レポを繰り返すだけという状況になり、まともな会話ができませんでした。


だいたい、私は、鮨屋では鉛筆でネタをチェックするシートがないと落ち着けないタイプなんですよ。


ただ、これまでの私であればひたすら時間が過ぎていくのに身を任せるだけですが、今回は違っていました。

筧美和子が私のような円形脱毛野郎を好きになるはずがないという気持ちが前面に出ていた私は、彼女に向かってこう言いました。

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