忘れられない香り Vol.2

「クロエ オードパルファム」はいい女の代名詞? 嫌でも忘れられない昔の彼女の存在

「最後のキスは タバコのフレーバーがした ニガくて切ない香り」

宇多田ヒカルも、かの名曲「First Love」でそう語り始める。

嗅覚の記憶というのは、触れたことよりも鮮明に脳が覚えている。街で、かつて好きだった人の香りが鼻をかすめ、後ろを振り返ったことが、誰しも一度はあるだろう。

そんな“忘れられない”思い出を、呼び覚ますのはどんな香りだろうか。洗いたての髪から香るシャンプー? 洗濯物の柔軟剤? 夏の波打ち際の潮風の匂い? それとも道端の金木犀?

かすかな香りを嗅ぐことで、追憶の彼方に追いやられていた記憶が走馬灯のように蘇ってくる。前回は佳恵子(30)が「ブルガリ マン」の忘れられない思い出を語ってくれた。今回は「クロエ オードパルファム」に翻弄された男の切ない話を紹介する。


男たちが声を揃えて言う「昔の彼女」の香り


CAたちは男を見る目が肥えている。

男は、どうしてもあの制服に弱いようだ。自分に一途に向き合ってくれている、と1ミリも疑わずに思い込んでいた自分の浅はかさを恨む。彼女にとって、自分は「いくつかある選択肢の1つ」でしかない。

もっと早く、玲奈の魔性に気付くべきだった。


玲奈とは1年前、天王洲アイルにある『T.Y. HARBOR BREWERY』で友人が開催したお食事会で知り合った。背中の終わりまで長く伸びる綺麗にカールされた髪。小さな耳たぶから無防備にピアスが揺れ、ぷっくりした唇が魅力的だったのを覚えている。

国内大手航空会社に勤める5歳年下の玲奈に、猛は一目惚れ。

遅れてきた玲奈は、猛より少し離れた席に座ったが、席替えのタイミングで自分の横の席に座った。どこの香水だったかは分からなかったが、彼女からは独特な温かみのあるローズの香りが鼻をくすぐった。

「急にこんなこと聞くと気持ち悪いと思われるだろうけど、すごく良い香りがする。どこの?」

問いかけに彼女は、香水をつけた手首を差し出して、クロエのオードパルファムだと教えてくれた。フレッシュなローズの香りが優しく、ウッディーなトーンと、アンバーグリスとシダーの香りが心地いい。

食事会が終わったあと、男性陣は一同に会して「玲奈ちゃんの香りがやばい」と言っていた。猛には馴染みがなかったが、彼らに言わせると「昔の彼女を思い出す」のだそうだ。

そして猛もまた、彼女の髪からふわっとしたクロエの香りと、笑ったときに目尻がくしゃっとなる可愛らしい姿が忘れられないでいた。

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