幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.11

幸せな離婚:愉しい時間は長く続かない!? 夫の体調に異変が……!!

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案していた。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。だが竜也の仕事は軌道に乗り、借金と生活費を渡すようになる。

ところが竜也に浮気疑惑が浮上。恭子自身も浮気はしていないが、俳優の清水壮太に抱きしめられるハプニングが。そしてついに恭子は竜也の疑惑の女・篠崎美香と対面。そして事実が明らかにならないまま、今度は竜也の体調が……!

第10話:夫とのレス修復がかなわないまま“あの女”と遂に対面!


「あら、篠崎さんは真壁さんと知り合いなんですね」

偶然ふたりの隣に居合わせたコーディネーターの女性が話に加わった。彼女は恭子が結婚後も結婚前の名字「小林」をビジネスネームとして使っていることを知っている。

竜也とは面識がないが、美香の言う「真壁さん」が恭子の夫だと気づいたのだろう。その予想外の割り込みに美香が「ええ、そうなんです」といちスタッフとしての顔を取り繕うのを見て、恭子は体制を立て直した。

「そう。篠崎さんは真壁と知り合いなのね」

努めて感情を顔に出さないよう言葉を発したが、美香が瞬時見せた意地悪い笑みを脳裏から拭い去れず、恭子の中にはざらざらとした感情が残った。

その夜、帰宅した恭子は何をするのも億劫なほど疲れていたため、着替える前にふーとため息をつきながらソファーに身体を預けた。首をくるくると回し、自分で肩を揉みほぐしてみるものの、疲れが抜けるわけもなく自然とこれまでの仕事人生に思いを馳せていた。

社会人になって13年。特にフリーランスとなったここ7年は、休日よりも仕事を優先し、それこそ馬車馬のように働いてきた。タイトルを言えば誰もが知っているヒット作を手がけた経験があるからこそ独立したが、その作品を世間が過去のものとみなせば自分自身も過去の人となってしまう。

そうなれば会社という肩書きがないぶん、業界の人間がより一層自分を軽んじることは明らかである。見下されれば当然、良作を手がけることはできない。

“あのプロデューサーか……”

監督やスタッフはもちろん、芸能事務所の人間や役者陣にそういったネガティブな目で見られたら落ちていく一方なのだ。落ち目にならないために、自分は必死に闘ってきた。周囲から肩肘張りすぎていると受け取られることもあっただろう。

その闘いによって長年、少しずつ沈殿してきた疲れがここ最近、身体の外に噴き出そうとしている感じがするのは気のせいだろうか。

――駄目だ。疲れてると考え方も後ろ向きになるんだよなあ。

気分を切り替えるためにソファーから立ち上がると、竜也が帰ってきた。やはり顔色がすぐれない。

「おかえり。ねえ竜也やっぱり今日も顔色が悪いよ。一緒に病院へ行こうよ」

「それ今日、黒木さんにも言われたよ。明日、人間ドックの予約入れてみる。恭子も一緒に行く?」

「わたしはまだ時間がとれそうにないな、ごめんね。ひとりでいける?」

「子供じゃないんだから大丈夫だよ」

笑いながら言う竜也の顔を見て、大きな病気じゃなければいいんだけどと心配する一方で、もし大病だったらと恭子はふと考えた。

もし今、竜也が働くことすらままならない身体になったら自分は彼を支える覚悟があるのだろうか。夫婦仲は今、竜也が自分に借金を返済しているため小康状態を保っているが、黙って生活費を入れなくなった夫に対し、一度は離婚を思索したではないか。

――わたしは竜也を本当に愛しているのだろうか。ううん、そもそも本当の愛って何?

恭子は自分で自分の心が解らなくなり、竜也の顔色を見て明日以降にしようと思っていた言葉を投げかけてしまった。

「今日、篠崎美香さんって人に会ったんだけど、いつも竜也にお世話になってますって言われたよ。どんな知り合い?」

「……ただの仕事関係者だよ」

着替えるため自室へ向かっている背中に話しかけたが、恭子の言葉を耳にしたとき、竜也の肩がピクリと反応したのは気のせいだろうか。結局、浮気の証拠はないのだし、これ以上突き詰めようとしても水かけ論になるだけだと判断し、恭子は深追いするのをやめた。

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