幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.7

幸せな離婚:一番の女友達の恋人は、まさかのあの男だった……!

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案していた。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。

だが竜也の仕事は軌道に乗り、借金と生活費を渡すようになる。一方で不倫中の女友達、真実があるトラブルに起こし……!?

第6話:嫉妬心をむき出しにする夫とアラフォー独女の闇

真実が自身の将来に絶望しているちょうどその頃。恭子は駒沢通りにある中華レストランを貸し切りにして開かれた映画の打ち上げパーティーに参加中だった。

会場はキャストとそのマネージャーやスタッフで混み合い、大声で笑い話す人々の声で騒々しい。周囲の声を聞き取るのが困難なほどである。

映画の打ち上げは主要キャストと二番手、三番手、制作陣がランクごとにわかれて座るのが常である。プロデューサーである恭子は新進気鋭と呼ばれて多くのヒット作を飛ばす監督やベテランの脚本家などがいる、制作陣トップの席に座っていた。

その席で監督の話に耳を傾けていると、肩をポンと叩かれた。
振り向くと後ろに立っていたのは、今回の作品で三番手の役を演じた清水壮太だった。

芸能界には膨大な数のイケメン俳優と称される男たちがいるが、10代後半でデビューした清水もその類である。ただ、端正な顔立ちと完璧なまでに整った身体を持つ俳優など芸能界には吐いて捨てるほどいるため、人気があるうちに実力を蓄えなければ淘汰されるのは時間の問題である。

その点清水は主役か否かや作品の大きさにこだわらず役の幅を広げてきたため、32歳となった今は味のある俳優へとステップアップしつつある。細面にきりりとした一重まぶたと、薄い唇は一見、クールな印象を与えるが、笑うと途端に幼くなるギャップがいい。

これからさらに年齢を重ねれば、良き父親からジゴロ役まで演じられる、カメレオンのような役者になるのでは……と恭子は見込んでいる。

「恭子さん、今回もお世話になりました。ありがとうございます」

右隣の空いているスタッフ席にしれっと座り、小籠包をパクついた後にニコリと笑い礼を言う彼はどこか少年らしさが残っていて愛らしい。そのせいか、下の名前で呼ばれても違和感を覚えない。

こんなやんちゃそうな弟がいたら愉しい幼少期を送れたかもしれないと、男兄弟のいない恭子は思う。

「いえいえ。お礼を言うのはこちらの方よ。今回の清水君のお芝居も本当に素敵だったから」

心からの言葉を口にした。ここ3作ほど仕事を共にしているが、清水は着実に成長しつつある。彼がいると画が引き締まるのだ。

「ところで恭子さん。最近なにかいいことありました?」
言われて恭子はドキッとした。

――竜也の経済が安定しつつあることが、わたしにいい影響をもたらしているのかな。

プライベートが顔に出てしまうなんてビジネスマン失格だと思いながらも、恭子は清水の洞察力に心の中で舌を巻く。最初に清水と一緒に仕事をしたとき――あれは確か、竜也が生活費を入れずに数ヶ月が経とうとしていた頃だった。清水に突然、「なにか嫌なことでもあったんですか?」と聞かれたのだ。

関係の浅深に関わらず、見抜く人は見抜くものなのかもしれないと感じながらも平静を装い「なにもないわよ。」と笑い返すとスマホが鳴った。真実である。

しかし1コールで切れてしまった。
――なにかあったのかな……。

得体のしれない胸騒ぎに襲われ、清水に目配せで断りを入れ会場の外に出て電話をかけ直したが、出ない。三度かけても同じだった。

そこで夏子に電話してみると、家で原稿を書いていたと言う。

「ねえ、真実から電話あった?」
「わたしに? ないよ」

そこで恭子は夏子に、今しがた起きたことを伝えた。
「女のひとり暮らしだから、なにかあったら大変だと思って。それに、なんだか心配なの」

一度、鍋パーティーをした真実の自宅は神泉にあり会場から近い。恭子は夏子と真実のマンション前で待ち合わせをすることにしてタクシーに乗り込んだ。

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