幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.6

幸せな離婚:嫉妬心をむき出しにする夫とアラフォー独女の闇

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案中。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。

だが竜也の仕事は軌道に乗り、借金と生活費を渡すようになる。一方で不倫中の女友達、真実は……!?

第5話:妻だからこそ憂う夫の仕事と金銭感覚

「もしもし」
恭子が気重な声で答えると、母親の佳代からはお決まりの言葉が返ってきた。

「ああ、わたしよ。今どこ?」

またか、「今どこ?」。佳代は子離れできておらず、いまだに自分がどこでなにをしているのか把握したがる。恭子にはこの先の展開が手に取るように解る。

「……竜也と外で食事してる」

「あらそう。いいわねえ、お金があって。ところで近所の佐竹さんの娘さん、ふたり目を出産したのよ」

まただ――。恭子は子供を産まない決意を竜也にしか伝えていないが、佳代は暗に「子供はまだか」と聞いているのだ。

恭子は就職してから今までずっと、父に隠れて小遣いをねだる母に毎月決まった額を渡している。過不足ない小遣いを渡しているのに「お金があっていいわね」と羨ましがり、もし自分が子供を産めば小遣いもストップせざるを得ないのに、「子供はまだか」と聞くのは一体、どういう腹積もりなのだろう。

ため息をこらえて「話ってそのこと?」とできるだけ穏やかに聞き返すと、佳代が話の矛先を変えた。

「お母さん、いつも恭子のこと心配してるのよ。最近仕事はどう? どんな映画を作ってるの?」

ああ、またこの話だ。うんざりする。教えなければ「あなたが心配だから聞きたいのに。」と拗ねることが解っているため公開中のタイトルを伝えると、前に何度も聞いた言葉が耳に響く。

「そう。聞いたことがない題名だわ。わたしが知らないってことはヒットしていないのかしら?」

竜也の母、妙子とはなんという違いだろう。妙子なら即、「おめでとう。わたしお友達と観に行くわ。」と単純に喜んでくれるだろう。

佳代は知識やキャリアを積む努力をせず、好調な父の事業や子供の優秀さを鼻にかける、人の褌で相撲を取る女だった。しかも、子供が自身の虚栄心を満たすうちはいいが、自身を大きく乗り越えようとすると嫉妬心をむき出しにする「面倒臭い女」でもある。

そんな女になりたくない。だからこそ自分は身ひとつで立てるように頑張ってきた。佳代を反面教師にして生きた結果が今だから感謝はしているが、話すたびに精神が摩耗する。

恭子が「食事中だからまたね。」と電話を切り席に戻ると、デザートを食べずに待っていた竜也が聞いた。

「お母さん、元気だった?」
「うん。またいつもの面倒臭い感じだったけど」

ぶすっとしながら答えると竜也が、「それだけ元気な証拠だよ。」と笑う。

――わたしが竜也を選んだのはこれが理由でもあったんだ。

恭子はあらためて実感する。幼少期の経緯を話しても竜也は佳代の悪口に頷いたことは一度もない。実家では母娘の中和剤になってくれるし、今だってこうして佳代から浴びた毒気を笑って抜いてくれている。

――こんなふうに接してくれる男の人は他にいない。

恭子は今さらのように竜也の気立ての良さをありがたく感じた。

それから数週間後。恭子は自宅で竜也と夕食をともにしながら杉森樹との関係を話していた。恭子と杉森はある縁でつながっていたのだ。

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