幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.10

幸せな離婚:夫とのレス修復がかなわないまま“あの女”と遂に対面!

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案していた。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。だが竜也の仕事は軌道に乗り、借金と生活費を渡すようになる。

ところが竜也に浮気疑惑が浮上したその夜、恭子は俳優の清水壮太に不意に抱きしめられてしまう。そして恭子は偶然にも竜也と関係があるかもしれない“あの女”と会うことになるが――。

第9話:夫の浮気疑惑が浮上したその夜、妻は別の男に抱きしめられ……。


「ちょっと、どうしたの清水君――」

表参道でばったり会った俳優の清水壮太と食事後、解散間際に急に抱きよせられたため恭子は瞬時とまどった。が、すぐに気持ちを立て直し言葉を発した。

不意打ちのハグで胸はドキドキしてしまっていたが、清水を強く押しのけるような少女みたいな過剰反応はせず、言い方もできるだけ穏やかに。

そして、ゆるやかに恭子を胸から解き放った清水を見上げると、目は涼やかに微笑んでいる。

「どうもしませんよ。親愛のハグです……あれ、恭子さん。顔が赤くなってる?」

さらに笑みを深めて言われたため「そんなはずないでしょ!」と火照った顔を悟られないように下を向くと、清水はまだ笑っているようだ。声で解る。

「意外とピュアなんですね、恭子さんは」

「もう! 大人をからかうのはいい加減にして頂戴!」

「さっきも言いましたけど、僕は恭子さんより3歳年下なだけですよ」

見下したり莫迦にするような感じではなく、ただ愉しそうに微笑んでいる清水に恭子は何も言い返せない。すると清水が「僕の家、この近くなんですけど寄っていきます?」と冗談交じりに言う。

その言葉に「行くわけないでしょう」と、恭子が思わず吹き出すとつられて清水も「ですよね」と笑ったためハグが戯れと化し、徒歩で帰る清水と別れて恭子はタクシーで帰宅した。

玄関のドアを開けると、すでに竜也が帰宅しているのが解った。

「ただいま」

「おかえり。遅かったね」

屈託なく迎えてくれる竜也に、恭子はほんの少しだけ申し訳なさを覚える。真実から伝え聞いた夏子の話によれば、竜也は浮気している可能性があるという。

ひとたび疑惑の目を向ければ浮気しているような気がしてたまらなくなるものだが、確定しているわけではない。恭子はみずからの猜疑心をねじ伏せるように、あえて竜也を客観視しようと心がけていた。

それにもし竜也が浮気していたとしても、だったら自分もするといった仕返しをする思考を恭子は持ち合わせていない。

だからいまだにドキドキしているこの胸が厄介なのだ。おそらく清水は自分をからかっただけであろうことは充分に理解している。ハグされる前まで恭子は清水を弟のように可愛いと感じていたし、俳優を生業としている清水は女心を操作するなどお手のものだろう。

解っているのに胸がときめいてしまう理由――それは久しぶりに男性の身体に触れたからだろうと、湯船に浸かりながら恭子は自分の状態を結論づけた。

そうやって気を落ち着かせてから入浴後にスキンケアを終え、部屋へ戻るとリビングの電気が消えている。

――もう寝ちゃったんだ。

今夜は会話らしい会話をほぼしていない。少し寂しくはあったが清水との件で動揺してしまった恭子は一方で、先に寝ていてくれる竜也をありがたく感じた。ふたりはレスではあるが、結婚してから今も同じベッドで寝ているからだ。

竜也を起こさないよう、足音を立てずに電気の消えた寝室に入り、そっとベッドにもぐり込む。すると、待ちかねていたかのように背中を向けていた竜也が振り向き、暗闇のなか恭子を抱きよせた。

自分を呼ぶ声が甘い。

――えっ、するってこと!? 2年もレスだったのに、なんで今夜に限って……?

恭子のとまどいに気づかず、竜也が恭子のパジャマのボタンに手をかけ始める。

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