デートの乾杯ってシャンパンやワインからでなくてもいい!
ここは新宿にあるお洒落なバル。店内でひと際ゴージャスなオーラを放つのが、31歳のチカネ。その向かいに座る胸元を開けたセクシーな女性は、29歳のマナミ。行動をともにすることが多いこのふたりは、リスペクトをこめて男たちから“リトル叶姉妹”と呼ばれている。
そして、マナミの横に座っている水色のワンピースの女性は26歳のエミリ。彼女は毎日のワークアウトで引き締めた身体とテラコッタ肌が魅力だ。
3人は独身。彼女たちの話題はもっぱらソロ活動の近況報告。デートをした男について、そのときに行ったお店についてなどである。
「このまえ話していた経営者の男とのデート、どうだった?」
マナミがそう聞くと、チカネはため息をついた。
「うーん、悪くはない人だけど……。っていうか、デートの乾杯ってシャンパンやワインからでなくてもいいと思わない? 『とりあえず泡にしようか』ってなぜか誇らしげに聞いてくる男って、なんだか古いというか、自分勝手というか。私って最初の一杯目はビールが飲みたいのよね」
チカネの言葉に、エミリも頷く。
「分かる。夏はシャンパンから飲み始めると悪酔いしちゃうこともあるし。私も最近はビールから始めたいと思ってた」
しかし、雰囲気重視のマナミは、ふたりに賛同できないのか首を横に振った。
「そんなのダメよ。私はせっかくのデートなのに勢いよくジョッキをぶつけてビールで乾杯!みたいなのはイヤ。やっぱりデートでは雰囲気にこだわって欲しい」
「マナミの言うことも分かる。この前、代理店の男に頼まれて開いた食事会で『とりあえず、生でしょ』って言われて、ビールで乾杯をすることになったの。私の友達たちは『若々しいって感じでいい!』とかフォローしてくれたけど、せっかくみんなおしゃれして来たのに、ジョッキで乾杯はちょっと気まずかったな(笑)」
と、エミリは苦い経験を思い出した。
最初の一杯はビールは飲みたい。でも、出だしの雰囲気は壊したくない。では、なにを注文するのが正解なのか。
「じつは、わたし見つけちゃったの。この夏、最初の乾杯にもってこいのお酒! ほら、ナイスタイミング!」
チカネがそう言うと、星が描かれた黒いボトルを持った店員が現れた。
店員がそれをグラスに注ぐと、細かな泡が立ち上り、ほのかにフルーティーな香りが漂った。
「これってスパークリング?」
マナミは注がれたグラスを見つめて首をかしげた。
「もしかして、ビールなの? ボトルの見た目が全然ビールっぽくない!」
エミリは驚いて、グラスとボトルを見比べる。
「そうなの! 最近よくデートしている証券マンのホームパーティーで、この『イネディット』に出会ったの。スタイリッシュなボトルが記憶に残るでしょ」
チカネがそう話すと、
「確かに、ビールとは思えないほど優雅なフォルム!」
と、エミリは携帯のカメラでそのボトルを写真におさめた。
エミリは撮影した写真をふたりに見せながら興奮気味に話す。
「本当にフォトジェニック。特別感があるからインスタ映えもいいかも! これならデートの雰囲気をこわさないわね。むしろ『これビールなの!?』って話も盛り上がりそう。それにしても、さすがチカネだわ。相変わらずいい男とデートしてるじゃない! 」
チカネは満足げに微笑んだ。