唖然とする僕にまったく構うことなく、真由美は言葉を続けた。
「驚くよね……私自身も驚いてる。彼とはまだ出会って2か月だもん。でも、恋愛って付き合った期間じゃないと思うの。彼なら大丈夫、間違いない」
真由美によれば、彼とは知人が主催する合コンで隣の席になったことがきっかけで付き合うことになったという。仕事はメーカーの技術職。学歴も給料も身長も、どれをとっても平均的な男だったから、真由美も最初はさほど興味を持たなかったが、清潔感のある身なりと、誠実で優しい人柄に惹かれ、すぐに次の約束をしたという。
3度目のデートで結ばれ、つい1週間前に妊娠が発覚。妊娠を告げると、誠実な彼は真由美にすぐプロポーズしたという。
「見て」と、真由美が自慢げに見せてくれた写真の中の男は、確かに誠実そうな風貌だった。決してイケメンと言える類ではないが、どことなく清潔感ある印象を持たせる。
2ヶ月前の合コンでの成果がまったく異なる二人の男。果たしてその違いは……?
男は過去の恋愛を引きずるという。元カノの結婚を聞いたら、自分の気持ちに嫉妬のような感情が沸くものかと思っていたが、実際には、思ったよりも冷静な自分がいた。きっと真由美とは終わった恋愛だと割り切れているからなのだろう。
幸せな結婚をするならば心から祝福したい。素直にそう思う。
……だが、僕の中で、別の何かがひっかかっていた。まるで小さなトゲのように。
思わず2ヶ月前の合コンにおける美也子とのやり取りがフラッシュバックする。外見も学歴もすべての面において、写真の男に負ける気がしないのに、ヤツは真由美をゲットし、僕は美也子をデートに誘うことすら失敗した。
この差は、いったいどこから来るんだろうか……?
(真由美の決断に何かヒントがあるかもしれない……)
そう思った僕は、思い切って彼女に問いかけてみることにした。
「おめでとう。幸せにな。ただ、ひとつだけ教えてくれ。僕と同棲していた3年もの間、きみはたった一度だって結婚したいと言ったことはなかった。なのに、出会ってまだ2ヶ月の男と結婚したいという。その違いが知りたい。その男にあって、僕にないものって、いったいなんなの?」
「うーん……」と、真由美は、しばし宙を見つめ、少し考えるそぶりをした後、ちょっと言いにくそうに、でもしっかりと僕の目を見ながらこう言った。