京都クエスト Vol.2

京都クエスト:京女がもてなす、心技体の湯豆腐に癒やされた

結婚を意識していたミナからの突然の解雇宣言。

「京都の若旦那さんにプロポーズされたの」

勝ち組のはずだった35歳 晃二を襲った突然の悲劇。最近では、意識高い系などという言葉には微動だにしない、美意識の塊のような仲間たちも何故か京都の引力に惹かれている。

え、なんで京都?若旦那ってナニモノ?

その謎を解くべく、京都へと降り立った晃二。前回は傷心を京都のお粥で癒やしていたが、次にやってきたのは京女のおもてなし。

※京都旅の豆知識 其の1※ 竹藪の美しさのピークは天龍寺の北門を超えてからなので、天龍寺を抜けて竹藪へと行くのがオススメ

京女のもてなしはつづく


「そうそう、こういう場所歩きたかったんだよ」

晃二が興奮気味に後ろを歩く遼と薫に振り返る。木漏れ日を浴びた彼女が「そうどすか~」とすかさず合の手を入れてくれた。京都弁が今の俺には癒やしの力を与えてくれている気がする。

ここまでに仕入れた情報だと、薫ちゃんは京都生まれ京都育ちの生粋の京女。

法律事務所で働くかたわら、姉妹でカフェを経営していたり、能楽師のPRなども手がけているらしい。マルセイユあたりにいそうな南仏っぽい雰囲気を漂わせる京女というのは、友人の彼女ながら実に魅力的である。

竹林を歩きながら気づいたことがあった。同じ竹林とはいえ、嵐山の駅の近くの竹藪は、天龍寺の北門を超えた後と手前では美しさが異なっている。天龍寺の裏あたりの方が竹の間引き方とか地面の手入れの仕方が徹底されているのだ。

「ムダ毛処理をしている女としてない女、その差に似てるかも」

自身の発想レベルの俗っぽさに辟易としつつも、人を惹きつけるものにはやはり理由があるのねと、妙に納得してる晃二であった。

竹藪の次はどこに行く?


朝粥のもてなしから、お座敷で抹茶のサプライズ体験と早速京都の粋な洗礼を受けた晃二。しかし次の行き先は、まだ聞かされていない。

お昼もまわっているし、そろそろお腹もすいてきた頃。しかし、竹藪を抜けて次に向かったのは、桂川沿いの嵐山公園。手元のスマホで確かめると、渡月橋の上流で『星のや 京都』に近い場所らしい。

「どこに行くの?」と尋ねるのも、なんだか粋じゃない気が。これまでの展開を考えると、素直に乗っかっていれば間違いはない。とはいえ、公園内の舗装路をはずれ、入っていったのは山道。

足元のベルルッティには少々厳しいオフロードである。ヒールの女子は連れて来ちゃいけないね、なんて勝手に京都デートを妄想しつつ、見えてきたのは桂川沿いに佇む趣あるお屋敷だ。


「ここは、近衛文麿の別邸だったとこらしいよ」と遼。なんと、山縣有朋の次は、近衛文麿ですか。

友人なので、敢えて口にしたことはないが、海外で長くキャリアを重ねてきた遼には一般的な価値観から超越した独特の軸を持っている。流行を追いかけてきただけの人間には真似のできない風格と華があるのだ。

たとえば、手元のパテック・フィリップも1920年代のアンティーク。この時代の金無垢というのは、現行モデルには出せない控えめながらも異質な存在感を放っている。

いいものをさりげなく身に着けている男というのは、自然とエレガントな身のこなしになるのかね。流行りものに敏感なことは悪くはないけど、自身の価値観で選んだスタイルを貫いていると、どうやら大人の色気ってものが醸しだされるものらしい。

それって、なんだか京都という町にも通じる気がするのよ、歴史を背景に存続し続けてきた町特有の自信とでもいうのかな。オレは東京が好きだよ、でもこういうのって、なんだか妬けちゃうんだよね。

ミナが京都に去っていた理由のひとつが、ちょっとだけ見えてきた気がした。

「別れ話が出るまで、全く京都のことなんて話さなかったのになぁ…」

突然、晃二の元を去ったミナの横顔が浮かぶ。

そう、“未練がましい”。男の特技のひとつです(笑)。

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