義実「先月結婚したんだよね」
落ち着いた性格ゆえ、彼女はいるかもとは思っていたが、まさかの新婚だったのだ。今の奥さんとは大学時代からの付き合いでもう10年。新婚とはいえ初々しい気持ちはなく、年上の彼女に押し切られて結婚したのだという。義実は東京へ転勤となったため、新婚だが別居状態。好き勝手できる環境にいるのだ。
彩乃ちゃんはあまり付き合う形に拘らなさそうだったから、と義実は言うが新婚とよろしくやれるほど自分は非道ではない。おしゃれなデザイナーズマンションに住みながら、部屋のこだわりはあまりなく、外見はいいが、自分はあまりもっていない。義実の部屋と本質は同じものだったのだ。
きっとこのままデートを重ねて別の場所でこういう関係になっていたら、自分は義実の正体に気付けなかったんだろうなと思う。真美の言うとおり、今日部屋に来たことは悪いことではなかった。
もうここにいる必要はないなと思い、「ちょっと混乱しているから一度考えたい」と深夜2時は過ぎていたが服に着替えた。
帰るの?という義実に、やらなきゃいけない仕事があったと理由をつけ家を出る。武蔵小山までは自腹だが、今日のことを真美に報告すべく途中まで歩いて帰ろうと思う。
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「なにそれ、最悪じゃん」と真美は電話の向こう側で怒っているが、彩乃は意外と清々しい気持ちでいた。自分から踏み込まなければいつまでも次には進めない。結果はどうであれ、そこで立ち止まるくらいなら思い切ったほうがいいと思えた。30過ぎてこんな恋愛の仕方は痛いかもしれないが、20代ならばまだ許される。
「真美、私これから3ヶ月の間で色々な人と会ってみる。そしていいと思ったら踏み込んでみるよ」
ライフスタイル研究家にはなれないが、男の本質は覗ける。その先になにがあるのかはわからないが男性に対する捉え方は変わるだろうと思った。恋愛に興味がないから守りに入るのではなく攻めてみよう。20代最初で最後の彩乃の冒険が、今始まったのであった。
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