ドラマチックな再会。
妙に生々しいシチュエーション。
あのときは気づかなかったが、史織は肉感的で、ラテンの雰囲があった。『你好 別館』で餃子を一人頬張る史織は明るくて、それでいて妖艶で、思わず見入ってしまいごくりと生唾を飲み込む。
それに加えて、高嶺の花のスッチーが、日陰の僕の名前を覚えていてくれたという高揚感で、身の程をわきまえずに、デートのオファーをしたのだ。
「今度、一緒に、す・・・鮨でも行きませんか?」
鮨をチョイスしたのは、ナイフとフォークカチャカチャ系のレストランに行きなれてそうなキャビンアテンダントに、そこらへんの店を提案する勇気のない僕の精一杯の背伸びだった。
史織は、一瞬驚いた表情を見せたがすぐに、満面の笑みで「ええ、是非!」と何度も首を縦に振った。その「快諾」は、鮨だから、ではなく僕だから、だと思うのは勘違いが過ぎるだろうか?
だけど、僕じゃなくたってそう思うだろう。
史織は、餃子の油でテロテロに濡れた唇をにこっと微笑ませてこう言ったのだから。
「何か、運命感じちゃいますね・・・❤」
客室乗務員・史織との、めくるめく(?!)夜
「直樹さん!ごめんなさい。待った?」
黒髪を後ろにひっつめて、見る人が見たらすぐに職業がわかる史織がカラカラと引き戸を開けて入ってきた。
六本木に2014年にオープンした鮨屋『麻葉』のカウンターで、隣に座っていた代理店と思しき明るいネイビーのスーツを着た二人組の男が、おっ、と目を奪われたのが気配でわかる。
客室乗務員でワインの勉強中だという史織は、「将来は、ワインエキスパートの資格をとって、自宅でマナー講師がしたい。」のだと言った。客室乗務員のありがちな将来設計に、若干苦笑いしつつも、品格がありつつも可愛らしい雰囲気の史織は、もしかすると、カリスマ講師とかやらになるかもしれないとも思う。
「この前、連絡先聞いて欲しかったのにな。」
その日名物の『毛蟹のミルフィーユ』を食べた後、史織は、静かな店内によく通る美しい声で言って、僕は思わず蟹を吹き出しそうになった。隣の代理店男たちの驚いたような視線を感じて、僕は、優越感を通り越して顔が赤くなる。
九州出身の史織は日本酒も好み、とにかく滅法酒が強く、そしてド・ストレートだ。僕は、内心のドキドキを隠すために、日本酒を飲み、飲むスピードがあがるほどに心拍数も上がって本末転倒だ。
「赤池さん、もう一軒!」
『麻葉』を出た時、すでに若干フラフラだったが、史織に誘われるままに2軒目、3軒目とはしごをした。2軒目こそ『THESE』と少しムフフな展開を期待してみたものの、穴の開いたバケツにように酒を煽る史織によって、お会計がバーらしからぬ金額になり、3軒目は、もはや、自分自身の体と財布の保身を考え、六本木の『T.G.I.FRIDAYS』に逃げ込んだ。
「私、将来、家を買ったら、一部屋ワインカーブにしたいんだぁ」
史織の呂律は、すでに若干回っていない。ワインカーブとは何だろうと聞き返そうとしたところで、史織はスイッチが切れたように、机に突っ伏して眠り始める。湧いてきた感情は、下心というよりはむしろ「助かった…」と命拾いした感覚だった。
それでも、久々の、3軒目という展開に学生時代に戻ったような、愉しい気分になっていて、いびきをかいて眠る奔放な史織を見ながら、一人勝手に、「この子と結婚したら」を夢想する。