そこに写っていたのは、例の大富豪でもなければ、ずば抜けたイケメンでもない。
トリュフまるごと一個買い切りの西麻布の『マルゴット・エ・バッチャーレ』で、にっこりと微笑むサエコの肩をぐっと引き寄せて笑っているのは、若干頭が後退した冴えないスーツ男だった。
サエコのコメントを見て靖子は更に驚く。
—new boyfriend❤︎—
「…新しい恋人…?」
靖子は信じられないような気持ちでその男の大きく開いた額を眺める。
テーブルの上には、おそらく一番高価なプライシングのものであろう、大きな大きなトリュフもしっかりと写り込んでいた。
サエコがデートしている相手は…
さとみのタクミがいかに危険な男かという忠告に対して、サエコは要領の得ない顔をしている。
挙句の果てに「誰のこと?」とは、タクミの化けの皮はまだ剥がれていないようだ。
獰猛なオスの前には、さすがのサエコも毒牙を抜かれてしまったのだろう。当初、百戦錬磨の男と魔性の女の世紀の一戦をオカズに女たちと笑い転げるつもりだったが、タクミに食われた今のさとみにとっては、もはや、敵はタクミ一人で、同じ女同士スクラムを組みたい気持ちになる。
「タクミよ。」
サエコの顔は晴れない。
「ほら、あの合コンで一番のイケメンで、青学中等部あがりの弁護士。時々テレビにも登場するあの国際弁護士の息子よ。」
合コンで一番の有望株で、皆が熱視線を送っていたあのタクミをサエコは思い出せないのだろうか。友達というだけで、さとみの自尊心も強化させてくれた男が、サエコにとっては、記憶にも残らない男と言われているようで、さとみは内心苛々としたが、同時にここまで言って理解が進まないこの状況に違和感を持った。
—デートしてる相手って、タクミじゃないの…?—
サエコはしばらく首を傾げていたが、考えるのを放棄したように笑った。
「私がデートしてるのは違う人よ。タクミくん…ごめん、思い出せないや。」
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