週末婚2016 Vol.2

週末婚2016:夫への思いやりがアダになった結婚記念日。そして、ミラノで待ち構えていた罠

前回までのあらすじ

週末だけ一緒に過ごす週末婚という結婚生活を送っている諒介と理帆子。

順調に思えていた週末婚生活だったが、週末婚3周年の記念日に突如「離婚」を告げる理帆子。
その真意は……?

週末婚2016 vol.1:東京で一人暮らし同士。なぜに週末婚?

いつもならば、ゆったりと寛げるはずのエールフランスのビジネスのシートが、今日はひどく座り心地が良くない。眼下には、漆黒の雲海が広がっているが、新月の今夜は一層闇が深い。

シャンパンを飲みながら、理帆子は数時間前の諒介との会話を思い出す。

今回のミラノでの仕事が成功したら週末婚を解消しよう、つまり同居しようという意味で離婚しようと提案したのだが、諒介のあの表情は予想外であった。

「離婚」という単語を使えば驚くであろうことは想定内であったが、週末婚を解消しようと言ったことに対して、喜びの表情が一切読み取れなかったことは、想定外と言わざるを得ない。

本当に週末婚を解消したかったわけではない。ただ、夫の本音を聞きたかっただけだ。しかし、吐き出された夫の本音は、予想外のものであった。

ーそれはあまりにも唐突じゃないか。週末婚っていう特殊な結婚生活に慣れようと俺だって努力してきたんだよ。やっと慣れてきた頃に今更……自分のことしか考えていないんだな、理帆子は。ー

あれは、諒介も週末婚を続けたいということだろうか。だとしたら、本音では理帆子も週末婚を継続したいのだから、むしろ好ましい返答であるはずだ。

諒介は本当は同居したいのではないか、自分に合わせて無理をして別居婚をしてくれているのではないかと思っていた。

だから、今回の仕事で落ち着いたら、夫に歩み寄ろうと思いやっての提案だったのだが、結果はピシャリと跳ね返されることとなった。

なーんだ。諒介も快適だったんじゃないか、といつもの理帆子ならばあっけらかんと思えるはずなのだが、なんとも言えない後味の悪い気持ちになっているのはなぜだろうか。なんともモヤモヤした気持ちになり、睡眠導入剤をエビアンで飲みくだした。

ヨーロッパ時間の早朝5時半に、まずはパリのシャルル・ド・ゴール空港に到着した。ここからミラノ便に乗り換えることになる。結局、ほとんど機内では眠れず、仕事も手につかなかった。

ミラノへのトランジットの間、エールフランスのラウンジでコーヒを飲みながら、macで仕事のメールを確認しようと思い、PCを開こうとしたその時、「こちら、よろしいですか?」唐突に日本語で声をかけられ、顔を上げる。

「理帆子、久しぶりだな。」

黒のレザーのコートに、細身の白のデニムパンツ。靴は、恐らくジョンロブのものであろう。スエードとレザーがミックスされたダークブルーのいかにも高価そうであるが、品格を湛えたものだ。

ここまでであれば、それほど個性的というほどではないだろう。しかし、サーモンピンクとターコイズブルーがミックスされたストールに、フランス人のようにゆるくウエーブがかかったヘアーに無精髭をたくわえている。

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