感情を出さないように、冷静を装うものの、心の中が波立ち、心拍数が上がる。口角がふるふると震えひきつっているのがわかる。
私は、何が聞きたくて、何を期待して来たのだろう。
サエコを貶める言葉を?
サエコより私がよいという太鼓判を?
劣等感を逆転させる甘い言葉を?
そうすれば自尊心が満たされて満足したのだろうか?
ウェイターが、持って来たウォッカを一気に煽る。空腹に、ヒリヒリするようなアルコールがしみて、体が一気に熱くなる。
そんなさとみを見て、タクミは、ソファを立つと、さとみの隣に腰を下ろした。そして、おもむろに耳元で囁いた。
—でも、サエコより、俺は、お前の方がタイプだよ。—
飴と鞭。
ドメスティックバイオレンスの男の典型だ。散々、ズタズタに痛めつけておいて、最後に泣きたくなるほど優しい言葉をかける。女と女の間にはびこる劣等感の根は深く、その劣等感を返上するためには、自分が認めた他者からの承認が必要らしい。
だからその夜、タクミのその甘い甘い言葉に身体を委ねてしまったさとみを、バカな女と笑うことなど、誰にもできないだろう。
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