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#東京悪女伝説 Vol.12

その名はサエコ:身体を許してしまった夜。「バカな女」と笑うことなど誰にもできない。

感情を出さないように、冷静を装うものの、心の中が波立ち、心拍数が上がる。口角がふるふると震えひきつっているのがわかる。

私は、何が聞きたくて、何を期待して来たのだろう。

サエコを貶める言葉を?
サエコより私がよいという太鼓判を?
劣等感を逆転させる甘い言葉を?
そうすれば自尊心が満たされて満足したのだろうか?

ウェイターが、持って来たウォッカを一気に煽る。空腹に、ヒリヒリするようなアルコールがしみて、体が一気に熱くなる。

そんなさとみを見て、タクミは、ソファを立つと、さとみの隣に腰を下ろした。そして、おもむろに耳元で囁いた。

—でも、サエコより、俺は、お前の方がタイプだよ。—

飴と鞭。

ドメスティックバイオレンスの男の典型だ。散々、ズタズタに痛めつけておいて、最後に泣きたくなるほど優しい言葉をかける。女と女の間にはびこる劣等感の根は深く、その劣等感を返上するためには、自分が認めた他者からの承認が必要らしい。

だからその夜、タクミのその甘い甘い言葉に身体を委ねてしまったさとみを、バカな女と笑うことなど、誰にもできないだろう。



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絶世の美女ではない。だけどなぜかあの子には男が途切れない。あなたの周りにもきっといる、そんな女のお話です。

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