—万が一、万が一・・・タクミが、本気でサエコにハマったら。—
その瞬間、凍りつくほどの戦慄を覚えて、さとみは、JR新橋駅の烏森口改札で立ち止まる。その時の圧倒的な、敗北感を想像してさとみは震え上がった。
さとみが、タクミに望んでいたことは、サエコを賞賛することはおろか、本気になることではない。
過去にタクミがそうしてきた数多の女たち同様に、甘く軽い言葉で口説き、あの成り上がり女を翻弄し、弄び、そして、ボロ雑巾のように一方的に捨てることだ。大分の田舎女が、大富豪との結婚だの、まして、タクミとの交際など、全くもって勘違いもいいところだ。
さとみは、大きく舌打ちをする。
すれ違うスーツを着たオヤジが驚いたように、批判的な視線を投げかけてきた。その視線に応戦するように、さとみは、ねじ伏せるように男を睨みつけると、その男は視線をそらし足早に去っていった。
—どいつもこいつも・・・—
君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる、と歌ったのは、中島みゆきだが、さとみの心の中に渦巻く鬱屈とした感情は、みるみる真っ黒な雲となり、今にも、地面を叩きつけるほどの激しく冷たい雨になりそうであった。
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