
慶應ガール、29歳:人生、負け知らずの外銀セールス美女。初めて訪れる挫折とは?
「何も音沙汰がない……こんなことって、アリですか!?」
ランチタイムに、同じ職場で働く川田にグチをこぼす由利。
「忘れた頃に返事をしてくるのかもね。今の候補者が辞退したりとか」
由利は焦っていた。ラルフは3月中に米国に帰国してしまう。日本とニューヨークの時差は半日以上あり、彼女は連絡が取りづらくなることを懸念していた。遠距離恋愛が続けば、その間に彼が他の女になびいてしまうかもしれない。そうなる前に、「私もニューヨークに行く」ということを示したかった。
彼の妻になって、ニューヨークに渡るという選択肢もゼロではない。しかし、プロポーズは男性からして貰いたいのが女心。自分から「結婚して欲しい」と言うことは、彼女のプライドが許さなかった。
パーフェクト・慶應ガール由利。人生初の挫折。
そうこうしているうちに、ラルフが帰国する日が近づいてきた。二人は忙しい合間を縫って、アンダーズ東京『ROOFTOP BAR』で落ち合い、予約していたテラス席に案内された。
「52階にテラス席」とは驚きだが、高い屋根に覆われ、暖房が効いているので寒くはなかった。床から伸びる透明のガラス窓から、明るい月が見える。眼下には築地まで伸びるマッカーサー通り。そして、目の前一面に宝石のように煌めくビルの灯りが散りばめられていた。
「この夜景は、女の子落ちるよ」
クスッと笑いながら、この店のおすすめである抹茶のカクテルを口にする由利。お茶のポットのようなガラス製の器から注ぐ点が画期的だ。カクテルの大会で優勝したものらしい。
隣には、日本酒を片手に寿司をつまむラルフがいる。このバーの奥には寿司のカウンターがあり、そこで握られた寿司をバーで夜景を見ながらつまむことができるのだ。「日本で食べる寿司は最後かもしれない」とばかりに、マグロの握りを頬張っていた。
由利はラルフに、伏し目がちにこう告げた。「実は、ニューヨークのセールスのポジションに落ちたみたいなんだ……」
「なんだ、そんなことよくあるよ。だって、世界中から応募が来るんだろ?」あっけらかんと答えるラルフ。寿司を頬張る勢いは止まらない。
「今回は残念だったけれど、また別のポジションに応募すればいい。他の地域や、他の会社の求人だってあるだろうし」
ラルフの反応に、由利はあっけに取られた。そうだ、1回落ちたくらい、どうってことないんだ。
◆
これまでの人生で、全てが順風満帆だった由利。
「全ての成功を手に入れる」というモットーの下、成功のための綿密な計画を立て、それに対する努力を惜しまなかった。そこに初めて「×」がついた。人生が思い通りにならないことは、誰しもが経験することである。しかし、生まれながらにして知性と美貌を兼ね備えた彼女は、それを経験することがほとんどなかった。
今回、世界中から優秀な人材が集まる仕事にチャレンジした由利は、人生で初めてとも言うべき挫折を味わった。しかし、数々の難局を乗り越えてきたラルフにとって、彼女の不安などカワイイものである。彼女は、尊敬するラルフの口から楽天的な言葉を聞けたからこそ、その現実を楽に受け入れられたのかもしれない。
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