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東京☆ビギナーズ Vol.14

東京☆ビギナーズ:因縁のライバルとの接待対決、六本木のカラオケ最終決戦。

おしぼリボルバーに対抗する、シンゴの必殺技とは?


「なまむぎなまごめなまたまご!なまむぎなまもめ…あ!」

社長の道楽で、なんとこの曲はついに三周目となったころには、たいがいのメンバーがテキーラを5杯以上飲み干していた。女の子たちも、社長チームもべろべろだ。唯一元気なのは、邦光社長と溝口、そして辛うじて食らいつくシンゴの3名であった。

―やつのおしぼリボルバーはあと1つ…。―

溝口が早口言葉をかむ確率は思いのほか高く、かなりの消耗戦となっていた。しかし、今回のシンゴにはリボルバーに匹敵する必殺技があった。

唯一チェイサー替わりにビールを飲む事だけが許されたこの会において、『ビールを飲むふりをして、ちょっとずつテキーラをビールグラスに口から戻す』という、溝口以上に姑息な手段で、なんとか耐え忍んでいた。

あまりに姑息なため、必殺技とも言えないのだが、溝口に出会ってから、寝る間を惜しんで研究した成果がこれであった。しかしながら、ビールを飲んでるふりをして、ビールグラスの水嵩が増えているのだから、この技は長くは使えない。おしぼリボルバーと同程度のソリューションではあるものの、最後はやはり気合いが物を言ってくる。

― ドリフの早口を抜けたその先に、意識を保ちながら最後まで盛り上げ続けた方が勝者。―

この想いは、言葉にせずともみなが心の中に全員が灯していた。しかし、一点だけ気になる節があった。溝口が早口言葉があまりにへたくそなのに気付いたのは、もうドリフの早口言葉が4週目に差し掛かったころだった。シンゴの脳裏に、一つの仮説が浮かび上がった。

「もしや…やつは極度の方言なまりがあるんではないか…!」

その仮説に基づき、シンゴはそっと一曲、渾身の一曲を電モクに流し込んだ。

シンゴが選んだのはあのお祭りソング!


ズンチャ!
ズンチャ!
ズンチャ!
ドンドコ!
ドンドコ!
ドンドコ!

「こ、この曲は…!!」

―ビンゴ!食いついたぞ!―

鳴り響く太鼓のイントロに、溝口が反応した。

「う、うおー!!」

あのクールで淡々とマシーンのように冷徹な溝口が、いきなり叫び出したのだ。

「だんじりじゃーい!!そーりゃ!そーりゃ!」

流れてきたのは、『だんじり』だ。

なんと、溝口はどっぷり関西人、しかもなまりのきつい岸和田の出身だったのだ。岸和田の人間は、一年中祭りのことを考えて生きている民族である。

車を運転するのカーステレオや、電車でヘッドホンから聞いている音楽、はたまた結婚式の入場曲までもが、だんじりだという説もある。それくらい、だんじりは、彼らを『狂わせる』のだ。

「うぉーい!!!だんじりじゃーい!」

溝口は最後に叫ぶと、ビールピッチャーを神輿の如く担ぎ上げ、すべて飲み干すと、そのまま床に倒れ込んだ。彼の顔からは、笑顔がこぼれていた。



「まさか溝口君がこんなキャラだったとは(笑)」

邦光社長も、彼の意外な行動に、ある意味大満足の様子だった。この選曲によって溝口の暴走とフロアの異常な盛り上がりをつくりだしたシンゴこそが、この場の勝者といえよう。カラオケを終え、一向は朝日を浴びながら、少し肌寒い春一番を背中に受けながら、各々の帰路についたのであった。

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東京☆ビギナーズ

大阪から東京に転勤してきた、大手インターネット広告代理店に勤める28歳シンゴの上京話。

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