崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.9

崖っぷちアラサー奮闘記:私が専業主婦?元カレのオファーは希望か墓場か

前回までのあらすじ

 北岡涼子、30歳、元女優。社会人経験なし、資格なし、貯金なし。芸能界で活躍したが、徐々に干されて今に至る。就職活動をしようにも、「綺麗」以外の特性がないため続々と不採用通知を受け取る。

 そんななか大先輩の小田につれられて足を踏み入れた、銀座の超高級クラブ『銀華』の由紀ママにひょんなことから店にスカウトされ、夜蝶デビューを果たした。

 同僚のホステス、紗耶香と同居生活をしている中、元恋人の拓海からある誘いを受けて出かけるものの、楽しいままでは終わらずに……?


第7話:崖っぷちアラサー奮闘記:LINEに届いた衝撃画像……お金を取るか友情を取るか!

 拓海と会った後に『銀華』へ出勤した夜。仕事を終えた涼子と紗耶香は自宅に到着すると順番に入浴をすませ、部屋の電気を消してセミダブルのベッドに身を横たえた。

 今夜、店で元気を取り戻して接客している紗耶香を見て、涼子は少し安心していた。

 同棲中の彼が紗耶香から別れ話をされて手当たり次第に物を壊して家を出て行き、涼子が紗耶香を助けに行ったあの日。玄関に出てきた紗耶香は目を真っ赤に泣き腫らしていた。まだ現実を受け入れられないのか、目の焦点も定まっていない。

 放っておいたら壊れてしまいそうな紗耶香を、涼子は「もう大丈夫だから」と言って抱きしめた。途端に紗耶香は、わーんと子供のように大泣きし、涼子にしがみついて感情を解放させたのだった。

 しかしあのときは、紗耶香の気分が少しでも落ち着いたらすぐ家を出なければならない状況であった。彼が戻って来たそのとき、荷物をまとめていたら出て行くことが悟られてしまう。それに、新人の自分たちが遅刻したら店からの評価も落ちることは確実であるうえに、罰金も取られてしまう。

 そこで涼子は紗耶香の自宅にあったタオルに冷凍庫で見つけた保冷剤を包んで手渡し、紗耶香の目の腫れを引かせ、荷物をまとめるのを手伝い大急ぎで自宅から連れ出したのだった。

 どうやら紗耶香も同じ日を思い出していたらしい。同居生活を始めてから何度も聞いた礼を繰り返す。

「涼子ちゃん、あの日助けてくれてありがとね。あのときの涼子ちゃん、すごく凛々しかった。頼りになるお姉さんって感じ」

「そうかな?」クスクスと笑うと暗闇の中ではあるが紗耶香がこちらを向いたのが解った。

「ねえ涼子ちゃん。どうしてあのとき、実家に戻れば? って言わなかったの? どうしていまも家に泊めてくれてるの?」

「だって……ウチらの年で独身で実家には戻りづらいじゃない。事情が事情だし、あのとき戻ったら紗耶香ちゃん、しばらく実家にいることになるでしょう? 彼と別れるかどうか決めてからのほうが、紗耶香ちゃんも実家に行きやすいと思ったの」

「そこまで先回りして考えてくれてたんだ……」紗耶香がフーと息を吐き出す音が聞こえる。

「涼子ちゃん、わたしたちホステス同士だからライバルにならなきゃいけないんだろうけど、わたしは涼子ちゃんのこと友達だと思ってるよ……駄目かな?」

「そんなことないよ。わたしも紗耶香ちゃんのこと、友達だと思ってる」

 事実、紗耶香は涼子にとって大人になって初めてできた友達かもしれない。しのぎを削り合う芸能界で、真の友達を作る機会は限りなく少ない。たとえ信頼関係を築いても互いの人気度合いにより、「腹の底ではなにを考えているのか解らない」という、こじれた関係になることも珍しくない世界であった。

「涼子ちゃん」紗耶香が意を決したように自分の名前を呼ぶ。
「ん? どうしたの?」

「わたし土曜日、実家に行ってくる。彼と別れるって言ってくるよ」
「そう……じゃあこれから大変になるから、しっかり寝ないとね」
「うん。おやすみなさい」

 週末が近い木曜の夜は疲れが溜まっていることもあり、ふたりはすぐさま眠りに落ちた。



 翌金曜日の午後。スマホが拓海からの着信を知らせた。スマホを耳に当てると「元気?」という拓海の照れくさそうな声が聞こえる。

――元気? って、昨日会ったばかりなのに。
 クスッと笑いがこぼれた。「元気よ」

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