婚外恋愛 Vol.1

婚外恋愛第1話:恵比寿の交差点にて


降りしきる雨の中、両手で持つ小花柄のフォックスアンブレラから時折顔を覗かせ、あの人がいないか遠慮がちに辺りを見渡す。腕時計に目をやると20時03分。待ち合わせの JR 恵比寿駅に程近い小さな交差点にて、ひとり静かに佇む。結婚式の日も今日みたいにひどい雨だった。

ふと5 年前のその日の事を思い出し、そっと目を閉じる。今まで数知れず出席してきた友達の結婚式は、総じて快晴だった。たとえ直前まで雨が降っていても、挙式が始まるやいなやチャペルの天窓から、新しい門出のふたりを祝福するかのように太陽の光が優しく降り注ぎ始めるのだ。結婚式には不思議な力が宿っていて、大抵は晴れるものだと勝手に思い込んでいた。それが、自分の時に限って大雨になろうとは・・・ 。

式場に選んだのは、最寄りの代官山駅から旧山手通り沿いを10分ほど歩いた場所にある、小さなチャペルが併設された一軒家レストランだった。真っ白な塀に鮮やかな濃緑色のアボガニーの重厚な扉が、ようこそと言わんばかりに大きく開くエントランス。

その傍らにはお店の名が華奢に記された黄色の看板。濃淡の茶色のレンガが交互に敷き詰められた屋根に、エントランスと同色の白と濃緑の窓枠が可愛らしく並ぶ赤茶色の壁には、およそどれ位の月日を要して生茂ったのか多くの蔦が雅やかに取り囲んでいた。

ヨーロッパのとある街の路地を歩いているうちに迷いこんでしまったかのような邸宅。大きな窓に優雅にかかるアイボリーのシルクカーテンに濃茶色のクラシックなテーブルと椅子が上品に配置された内観。とにかく全てが素敵で、第一印象で「ここだ」と思った。

その中でも私が一番気に入ったのは、赤、黄色、青、薄紫、白、大小色とりどりの香しい花々が至るところに咲き誇る程よく小振りな庭園だった。雲ひとつない晴天の青空の下、皆の笑顔まで咲き誇るこの中を、ふたり手を繋いでフラワーシャワーを浴びたいと強く思った。

初めて式場を訪れてから1年後の当日を迎えるまで、いや、もしかすると私が「結婚」を意識するずっと前から、その光景を夢見ていたかもしれない。

前日までは晴れていたのだ。それなのに・・・。

天気の事に触れまいと一様に気を使う友人達に向かって、たまらず自分から「足元悪い中、来てくれてありがとう。」と言って、気丈に振る舞った。皆の憐れみの感情が物質化して、まるで見えない不純物として空気中に漂っているようだった。

閉じていた目を開き、手に持つ傘を見る。傘に活き活きと描かれた花達が雨に打たれている姿は、あの雨の日の中でも、一生懸命私達を祝福しようと健気に咲き続けていた花々のように見える。
ふと、蒼太とまたあのレストランに行きたいと思った。今は11月だから、あの日に比べたらあんなに沢山の花は咲いてないかもしれないけど・・・。

この左手首の華奢な腕時計は、パリのカルティエ本店で出会ったパシャだ。結婚式の翌日に出発した新婚旅行ということもあり、これから真新しい時間を刻むのだと自分の為に奮発して手に入れた。

3歳年下の蒼太は当時26歳。新生活が始まる入用の時期でもあったし、買ってとは、とても言えなかった。お金持ちの年上男性と結婚して、欲しいものを買って貰えるような知り合いも沢山いたが、特に羨ましいと思う事はなかった。

行き先のわかる列車に途中乗車するよりも、始発駅から行く先のわからない列車に乗ることを選んだ。蒼太の将来性に賭けてみたかったのだ。

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