東京女子図鑑 Vol.7

34歳・女性が住む街「豊洲」。適齢期の女性がぶちあたる「知ってしまった不幸」と「知らない不幸」

「銀座」に住んで一流の女を目指す綾(31歳)の3年後・・・


生まれた街から、就職を機に越してきた綾。 秋田の国立大学を出た綾が、地方銀行を強く勧める親をなんとか説き伏せて東京の某アパレル企業の総合職として就職。三軒茶屋の1Kに住み、仕事に邁進するうちに、仕事ぶりを評価されてブランドマネージャーに抜擢されたのが28歳。それを機に、5年間住んだ三軒茶屋を離れ、恵比寿に住んだ綾。上昇志向は飽き足らず、外資系に転職。お給料は700万円に。一流な女を目指して上質な暮らしをするため、銀座に引っ越した。不穏な恋愛と、享楽的な生活を楽しんでいたようだが、34歳になった綾は今何を思う・・・?

前回:31歳女性がするべき、銀座での“上質な”暮らし。大人の女の流儀とは?


時々デートしている人がいたことは以前お伝えしましたよね?

彼に対しては、本気になったことは一度もなくて、彼の事情も理解していたつもりでした。「遊ばれている」と注意してくれる友達もいましたが、美味しいレストランも知っている、遊び方もわかっている、となれば、私も享受できるメリットがたくさんあるんです。もちろん好きな気持ちはありましたが、それ以上に打算的に考えて彼との関係を続け、甘い蜜を吸っていました。

足長おじさんみたいな男性を得た女性の成長スピードは速く、大人の階段を上るどころじゃない、エスカレーターでぐんぐん上に行けるんです。竜宮城で飲んで踊っているみたいに、毎日が宴のような享楽的な3年間でした。

転機になったのは、私の33歳の誕生日パーティーの時です。

いつもの仲間が誕生日お祝いで集まってくれました。私は迷うことなくシャンパンをオーダーしましたが、その時、5人中私以外の4人が全員、ノンアルコールをオーダーしたんです。それもそのはず、皆結婚していて、そのうちの2人が子持ち授乳中、2人が妊娠中だったんです。

その場は楽しそうにやり過ごしましたが、家に帰ってからものすごく落ち込みました。馬鹿騒ぎをしていた女友達が、私が竜宮城にいる間に、いつの間にやら命を宿してるんですから。あの時の衝撃といったら・・・いよいよ、自分が、後戻りできないほどのところまで来てしまったことを自覚しました。

たくさんのレストランと愉しみを知った。けど、その代償は大きい。


地元の友達は、ほとんど、地元で知り合った男性と恋をして結婚して子供を作っています。年賀状の彼女たちはすごく幸せそうに笑っています。

だけど、彼女たちは、銀座のグランメゾンで、高いヒールが埋もれそうになるくらいふかふかの絨毯の上を歩く高揚感を知らないし、歌舞伎の桟敷席で食べるお弁当の味も知らないんですよね。ちょっと前までは、そういう人生って本当に幸せなのかなってずっと思っていました。私はそんな狭い世界で井の中の蛙みたいな幸せなんていらない、とも・・・

彼にはすごく感謝してるんです。だって、20代、30代のそこらへんの男性じゃ、一流レストランや一流ホテルの経験なんて、こんなにもできなかったでしょうし・・・

仕事も同じです。もちろん、楽じゃないですよ?女上司は相変わらず無理難題ふっかけてくるし、終わらなくて深夜にまで、仕事が及ぶこともあります。だけど、本社の窓から見える銀座の煌めきは、自分が時代のど真ん中で働いているんだという高揚感を掻き立ててくれます。地元の友達は、この愉しさを知らないでしょう。

けど、こういう愉しみを、知ってしまった不幸と知らない不幸と。女にとって、どちらが不幸なんだろう?と最近ふと考える事があります。

結婚は「する」と決めたら簡単なんです。イス取りゲームで一人だけあぶれてしまう恐怖に比べれば。


そう思ってからの足の洗い方は我ながらあっぱれだったと思います。彼には、正直に話して縁を切りました。いまだに連絡は来ますが、全て無視。こうなったとき、女性の方が強いですよね(笑)

女は子供を産むリミットも限られています。だからこそ、33歳の誕生日の衝撃から覚めやらぬうちに、ゴールを「結婚」にセットしました。目的が決まれば、手段は問いません。友達の既婚率が高まれば、合コンなんてほとんど開催されていませんから、オーガニックな出会いには期待せず、婚活アプリに登録しましたね。

仕事のように、1週間に2人以上会うとノルマを決めて3ヶ月。30人弱の人に出会い、その中から今の旦那に出会いました。結婚は「する」と決めたら簡単なんですよ。独身の女性達だってわかってるはず。だけど、皆「する」ことに価値を見出しているんじゃなくて、「条件のいい人とする」ことが重要だから、結婚できないし、しないんです。

私は、あの誕生日会での衝撃で、イス取りゲームで一人だけあぶれてしまうような恐怖を体験したので、とにかく、結婚をすることに価値を見出し、結婚を決意しました。運命の人と出会って自然に・・・なんて無いですよ、特に30を越えたら。いろんなものを知りすぎて、味わいすぎて、どんどん欲が出て決められなくなりますから。

そして、綾が住んだ街は・・・

自分が、"何者"でもなかった、という事実に直面する切なさ。


今の彼は、総合商社に勤務する39歳です。お給料は900万円程度。彼と合わせて世帯年収は、額面1,700万円。あ、私のお給料ですか?3年で、70万ぐらいしか上がっていません。それでも上がるだけ有難いですけどね・・・
彼は、37歳のときに、ローンで、豊洲にタワーマンションを購入したそうです。結婚を機に、銀座の家から、彼のマンションに引っ越してきました。

豊洲と銀座って目と鼻の先なのに、住んでる人たちはやはり違います。世帯年収1,000万円〜2,000万円までに皆だいたい収まるんじゃないですか?飛び抜けて高所得者もいない代わりに、経済力に不安がある人もいない。そういう同列の安心感みたいなものはある気がします。

だけど私は、この街の、その同列さがもたらす少しの切なさを感じます。

それって、きっと、すごく面白くて刺激的だと子供の頃から信じていた自分の人生の物語が、実は、既視感のある、そこそこ素敵な「よくあるお話」だったことに気付かされてしまうからなんだろうなと最近思います。自分という人間が、唯一無二の主人公じゃなくて、エキストラの一人になった錯覚に陥る感じです。

あ、でも最近エビちゃん夫妻が、豊洲のタワーマンションの最上階に引っ越してきたという噂を聞いて、この同列の生態系に変動が起きそうです!だって、あの女性たちの理想を体現しているエビちゃんが選んだ街ですからね!住んでる人たちも、皆イメージアップになると喜んでいます。切なさに、心強さが足され、この街が愛おしくなっていくんでしょうね(笑)

エレベーターでの序列。小さな劣等感と優越感のシーソーゲーム。


今のマンションは、タワーマンションで、ベランダからは東京湾花火が見えます。豊洲のタワーマンションに住んでいる人たちにとっては、かなりのポイントだったみたいなのですが、実は今年で最後みたいですよ(笑)彼を始め、住んでる人たちの、購入の際の決め手の一つでもあったらしいので、署名活動するんだとか言っていますね。

ただ、私、タワーマンションって苦手です。マンションのエレベーターで住人同士が一緒になって、ボタンを押すときのあの一瞬の間・・・あの瞬間が嫌なんですよね・・・躊躇と、その後に訪れる気まずい感じは何なんでしょうね?同じマンションでも、階数によって値段がまるで違うのはわかっているので、上層部の人は、お金持ち特有の気遣いでボタンを押すのが心なしか遅い気がしますし、下層部の人たちは、エレベーターから降りるとき、自尊心を保つかのように毅然と笑顔で挨拶をしてくれます。私はちょうど、17階と真ん中くらいのフロアなので、その両者を演じ分けています。

意識しないと、わからないような、小さな劣等感と優越感のシーソーゲームが毎日、エレベーターの中で繰り返されます。冷静に観察していると結構面白いですよ。

幸せってきっと、このタワーマンションのエレベーター内の劣等感と優越感のように相対的なものなんだなって最近思います。私は、誠実で、それなりの人と結婚しましたけど、絶対的に彼のことを好きで代替不可能かと言われると・・・正直よく分かりません。でも上を見てもキリが無いし、下を見ても仕方がない。自分の今置かれた状況で満足するしかないんだと思います。

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