美食家たちが選ぶ「私を変えた一皿」を14品、一挙ご紹介!

ソムリエ 渋谷康弘のBest Choice

ここは浅草寺裏にある『つち田』。1966年前に創業し、現在は土田裕氏が二代目を継いでいる。父の頃はふぐが看板だったが、現在はスッポン目当てのお客がそれを上回る。浜名湖産中心のスッポンをさっと湯がいて薄皮を剥ぐ。これを30〜40分、たっぷりの日本酒と水でさっと煮て、塩味ぱらり。要点は臭みを出さぬ火力の強さだ。

「いや父と、同じことをやってるだけで。何か、特別なことなんて別に、ねぇ」
朴訥を絵に描いたような土田氏が頭をかく。渋谷氏は九重親方に連れられ、親方はシュートボクシングジム社長の紹介でと数珠つなぎ、いもづる式。旨いものへの飽くなき探求心を持つ男達はかなりしつこい。ほれ、スッポンのごとく。

「今まで何度かスッポンは食べたけれど、これぞ!という衝撃はここが初めてでね。色、艶、香り、この深み! 違うんだよね、他とはさ……」(遠い目)
シンプルだが、息の長い料理に心惹かれると渋谷氏は言う。

¥4,620。「魚をすり身にする調理法は、日本的」という渋谷氏。なかでも『アピシウス』のそれは今や消えかけつつあるフレンチの伝統的手法に則った皿。氏が初心に還る味だ

『アピシウス』の
「甲殻類のクネル アメリケーヌソース」

フレンチならば、リヨンの郷土料理であるクネル。

繊維質で臭みのある川魚をいかに旨く食すか、長年人々が探求した結果が皿にのる。

¥2,400~(その日の仕入れ状況により異なる)。「イタリア各地を旅した時に食べたフリットミストの衣が絶妙で、忘れられない」。『トラットリア・ケ・パッキア』のそれは思い出を超えうる味だという

『トラットリア・ケ・パッキア』の
「フリットミスト」

イタリアンならフリットミスト。

天ぷらとは異なる衣のさくさく感はビール由来。具以上に歯触りを楽しむ揚げ物だ。

¥6,300。「姿煮として出せるものは小さい。本当に良質で大きなものは、皿に入らないから」と渋谷氏。『中国飯店』の上等の出汁をしっかり含んだフカヒレのほぐし身は余所とは違う、格別の味とも

『中国飯店 六本木店』の
「フカヒレの濃厚煮込み 壷入り」

中国料理ならば、フカヒレ。味も素っ気もない素材を頂点にまで持って行く技術と情熱に、思いを馳せる。

すっぽんは中1匹¥15,750で2~3人分。鍋、レバ刺し、肝刺し、生き血のリンゴジュース割をいただける。雑炊は1人プラス¥500、裏メニューの〆ラーメンも同額。スープを余すところなく堪能すべし。要予約

『つち田』の「スッポン料理」

そして、スッポンである。『つち田』の鍋にはささがきしたごぼうと斜め切りしたネギのみが入る。豆腐など水気が出るものは加えない。せっかくの出汁の旨みを薄めてしまうからだ。

日本酒に漬けた胆嚢と心臓をつるり、レバーを塩とごま油でしゃくしゃくと嚙み、黄金色の出汁とコラーゲンたっぷりの身を流し込めば、翌朝を待つことなく身体は火照り、額が光る。

単純なのに、味も効能も深い。

「いやぁ、本当にね、旨いよ」出てくる台詞も明快で無駄がない。能書き並べるうちは余裕があるというもの、心底感嘆したら暇などあろうことか。
「ああ美味しかった!」価値観なんて、言いなさんな。

いかがだったでしょうか? 名だたる美食家たちの価値観を変えた名料理が、今度は貴方の価値観を変えるかも!? ぜひ試してみてください。

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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