レストランで恋のシーソーゲーム(WOMAN) Vol.5

レストランで恋のシーソーゲーム
第5話:3回目で告げられた浩平の真実

ー浩平くん。来週の金曜日空いてる?広尾に美味しいビストロ見つけたんだけど一緒にどうかな?ー

この前の気まずい夜。

油断して最後に飲んだ桜色のカクテルは可愛いくせして度数が強かったようだ。
表面張力ギリギリの意識で結衣の勝ち逃げとなるつもりだったのに。

春を目前にして悪あがきのような底冷えの寒さに、帰り道、浩平はさも自然に結衣の手を握って、そして結衣は抗わなかった。

もちろん罪滅ぼしの気持ちが8割を占める。けど・・・ー
その逆説の後に続く感情に、結衣自身も確証が持てなかった。

結衣は、浩平に完全に気持ちが向かっているわけではない。(当たり前だ。あまりにも条件が普通すぎる)
むしろ、手を握っておきながら、そのことに何も触れない浩平に若干焦れているというのが本音だった。すぐにフォローのメールが来ても良さそうなのに、浩平からの連絡はあの夜からない。

—善良そうな顔をして実はすごい遊び慣れた人だったりしてー

そんな疑いが少しだけ顔を覗かせたとき、浩平から返事が返ってきた。

ー結衣ちゃんからの誘いなら、空いてないわけがない。OK!ー

恋愛で常に優位な立場をキープしておきたい結衣は、先ほどの疑惑を撤回し、浩平からの答えを満足げに眺めた。

◼︎

一歩ずつ春が確実に近づいているようだ。湿度を含んだ金曜日の夜。
今夜の舞台は、広尾の商店街にあるこじんまりとしたお店が『レストラン オカダ』。コース料理は5,400円とリーズナブルながら、本格的なカジュアルフレンチを楽しめるとあって最近会社の女の子たちの間で人気のお店だった。

20時を少し過ぎて結衣が店に到着すると、ウッディな落ち着きある店内は、すでに満席。結衣は、奥にある個室に通された。個室といっても、店の奥にある半個室のような、ちょうど他の客から死角となったスペースだった。

まだ浩平は来ていない。

15分ほど経った頃、遅れてやってきた浩平に結衣は目を奪われた。

インターネット企業のプロデューサーをしている浩平は、いつもデニムにジャケットというラフな出で立ちだが、その日は、ネイビーのスーツを身に纏っていた。渋い赤色のネクタイがアクセントとなり、白いシャツは、襟が高く、上品な光沢を放っていた。

「スーツ、かっこいいね。」

正直に伝えると、浩平は、驚いたように言った。

「そうかな。久々に着たから自分ではすごい違和感。」

席に着くと、クライアントへのアポイントがあり遅れてしまったことを詫びた。そして、個室をぐるっと見まわした。

「なんだか、雰囲気いいお店だね。さすが結衣ちゃん。」

他の客からは隔離された空間ながら、完全に遮断されていないという安心感が、今の二人の関係性にはぴったりだった。

アラカルトメニューより前菜2品、メイン1品を選んだ。2人で合わせる必要はなく、前菜とメインをそれぞれがチョイス可能だったので浩平と相談し、それぞれ別のものをチョイスした。

この前のデートの帰り道、手を握ってきた浩平。彼の発言や、態度から、結衣に好意があるのは確実と思っている。通常、恋愛は「3回目のデート」で愛の告白、付き合って「3回目のデート」で一線を越える。そんな都市伝説のような言い伝えを結衣だけではなく女の子たちは暗黙のルールと捉えている。

今日は、3回目。

浩平は、どんな行動に出るのだろう。
告白されても困るけど、手を握られながらスルーされるのも女のプライド的によろしくない。

特に核心に触れることもなく淀みなく会話は流れ、最後のマドレーヌが香ばしい甘い香りとともにテーブルに運ばれてきた時、浩平は絞り出すように言った。

「結衣ちゃん。俺実は彼女がいるんだ」

■レストランで恋のシーソゲーム(MAN)第5話:『レストランオカダ』で緻密な計算の上に出したジョーカー


この記事へのコメント

Pencilコメントする

コメントはまだありません。

【レストランで恋のシーソーゲーム(WOMAN)】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo