<< 第3話:セカンドデート延長戦 2軒目で訪れた春の嵐?
「結衣ちゃん?」
その男が”その男“だと認識するまでに2秒ほど要した。
”その男“は、結衣の数回のデューデリジェンスを突破し、今所持しているカードの優先順位トップの陽介だった。丸の内にある外資投資銀行の陽介(36歳)。陽介は、経済力は勿論合格で、その他店選びのセンス良し、穏やかな人柄と甘いマスクで結衣の中での高評価を叩き出していた。
その陽介が今なぜか目の前にいる。
そして、隣にいる浩平の関係性を無言で問うている。浩平は訝しげにその男と私を交互に見ている。
ーまずいな。この場をどう収めるべきかー
どちらかの側につけば、どちらかを失うのは明白だった。もちろんどちらかと言われたら、現時点では陽介をとるが、この善良な浩平をこの場で、ピエロにしてしまっては女が廃る。
そして結衣は口を開いた。
「陽介さん、この前はありがとうございました。お食事美味しかったですね。また行きましょう!」
そして極めて明るく続ける。
「あ、こちら、浩平さん。インターネット企業でプロデューサーをしているんです。こちらは、陽介さん。外資投資銀行に勤務されてるそうです。」
結衣のその屈託のない表情と発言に二人は面食らったようだ。
中庸が最善と首相は言ったが、これは、外交に留まらず恋愛でも同様。隠せば「隠し事」になり不信感を抱かせる一方で、ちょっぴり気まずさはあるものの、手の中のカードを見せてしまえば、責められることはない。
陽介は、何かを言いたげだったが、どうも、と浩平に頭を下げ、会食終わりに一人で飲みに来てたことを明かした。そして、しばしの沈黙のち、じゃあ、また、と会釈をしてカウンターに戻った。
結衣は、心の中で安堵のため息をつくと、浩平が言った。
「世の中って狭いね。こんなところで知り合いに会うなんてね。」
浩平は、ほんとうにただの知り合いと思ってるのか、それとも善良さの皮をまとって、本当は猜疑心と、嫉妬心で傷ついているのだろうか。結衣は、不都合な思考に蓋をして、もう一杯オーダーすることにした。
すでに『sudachi』で数杯と、あまおうのカクテル(それに浩平がオーダーしたキウイのカクテルを奪っていた)を飲み干していた。弱くはないが酒豪と言えるほどではない結衣の頬には赤みが差して、次の一杯が結衣の酔いの臨界点となることを、体はわかっている。
しかし、この場の気まずさを一掃させ、浩平の気分を少しリカバリーできるならお安い御用だ。もちろん臨界点ギリギリの表面張力で今夜は浩平の思い通りにはならないだろう。
ーだけど。3回目のデートは私からデートに誘ってみようかな—
店員が持ってきた桜の花びらが浮いた桜色のカクテルを、まんざらでもない気持ちで見つめた。
■レストランで恋のシーソゲーム(MAN)第4話:嫉妬と諦めのミクソロジー
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