SPECIAL TALK Vol.145

~留学を思いとどまり日本で学んだ文化が、世界で評価される武器になった~


自分にも見えていなかった作品が持つ意味


金丸:あのヒールレスシューズの発想は、どこから生まれたんですか?

舘鼻:日本の装束を研究する中で出合ったのが、花魁(おいらん)です。花魁が履いていた高下駄は、20センチの高さがあります。それを現代に置き換えて、靴として表現できたら面白いな、というところからスタートしました。だから僕としては、「かかとがない靴」じゃなくて、「厚底の靴」を作ったつもりだったんです。

金丸:「ヒールレス」が狙いではなかった?

舘鼻:そうです。ファッション業界で知られるようになってから、欧米の人たちが、かかとがないことに注目して、ヒールレスシューズと呼び始めた。僕が最初から名付けていたわけではないんです。

金丸:造形が注目されたのは間違いないけど、目の付け所が違ったんですね。

舘鼻:ヒールって、西洋の靴の象徴のようなものなんですよ。男性でも5〜6センチのかかとがある靴を履いていたし、ヒールがあることが靴の当たり前で。

金丸:日本人から見れば「現代の高下駄」、西洋から見れば「かかとの欠けた靴」。面白いですね。

舘鼻:僕自身、すごく面白く感じました。育った環境や文化が違えば、同じものでも見方が違う。だから、あえて作品のタイトルも「ヒールレスシューズ」に変えたんです。

金丸:なるほど。ところで、あの靴って、普通に歩けるんですか?ちょっと油断したらすぐに転んでしまいそうな(笑)。

舘鼻:重心はある程度考えていますし、あの靴でも歩けるくらい、人間の体って高性能なんですよ。竹馬でも歩けるじゃないですか。

金丸:確かに(笑)。卒業制作がレディー・ガガにつながって、その後は?

舘鼻:そのオファーがあってから、しばらくは「靴づくりの人間」というふうに、あえて打ち出しました。実際にはいろいろとものづくりをしているんだけど、それだと逆に、僕が何をしているのかが伝わりにくいかなと考えて。

金丸:ものすごく戦略的ですね!これまで勝手に持っていた藝大卒の方に対するイメージが、舘鼻さんのおかげで覆されました。

舘鼻:僕が大学に行っていた頃は、「作家にならないなら、アートを捨てるくらいの覚悟がないとダメだ」みたいな空気がありました。ただ、その空気を作っているのが、一度も大学の外に出たことがない先生たちだったので、何か変じゃないかと思っていましたね。

金丸:「お金のことを考えるな。ものづくりに集中しろ」みたいなことを言いながら、自分は安定した身分にある、というのは大きな矛盾ですよ。私はアーティストやエンジニアも、成功するためにマーケティングや会計を学ぶべきだと思います。

アーティストをやるのは、今の日本では厳しい


舘鼻:アーティストと名乗ると、「好きなことをやっている」と思われますけど、実際にはお金を稼がなくちゃならない。展覧会を開くにも、何百万円では済まない費用がかかります。それにプロフェッショナルのアーティストとして、作品を作ることが仕事になると、いろいろな制約も生まれます。

金丸:時間も費用も無制限には投下できませんよね。クライアントがいれば、その要望を反映させないといけないし、スタッフを抱えていれば、その分も稼がないといけない。

舘鼻:そうですね。うちにはスタッフが4人いますが、僕の場合、クライアントワークよりも展覧会がベースです。全部自分たちでリスクテイクして、展覧会に出展した作品をギャラリーと一緒に売る、ということをしています。

金丸:アート作品って、売れなかったら減損処理できるんですか?

舘鼻:それができないんですよ。作品は在庫に計上されて、課税もされる。日本でアーティストをやっていくのは、結構厳しいです。

金丸:じゃあ、なおさら舘鼻さんのように、ある意味、したたかな部分が必要ですよね。それにしても、アートのマーケットって独特じゃないですか?私からすると、値段がどうやって決まるのかもまったくわからない。

舘鼻:我々の業界は、特に不思議です。普通は一点物って、複数あるものより価値が高いじゃないですか。ところが、一点物が当たり前の世界になると、そうじゃないものを欲しがられる。

金丸:エルメスのバーキンみたいな世界ですか?一定量はあるけれど、たくさんはない。「あの人が持っているものを私も欲しい」という需要が生まれるという。

舘鼻:まさにそうです。ある程度、シリーズとしてボリュームがあるもののほうが、みんなに知られて価値が生まれる。例えば同じ版の版画作品でも、描かれた人が着ているTシャツの色が違うというような。アンディ・ウォーホルのシルクスクリーンも、版は同じだけど手で刷っているから、毎回同じ図柄にはならない。一点物(ユニークピース)と量産品(マルチプル)の両方の要素があるので、「ユニークマルチプル」と呼ばれています。

金丸:伝統工芸についても同じことが言えそうですね。舘鼻さんは伝統工芸について、どんなところに課題を感じますか?

舘鼻:職人の地位があまり高くないですよね。明治時代に、日本の工芸は欧米で高く評価され栄華を極めました。でも今は、お土産品のように雑貨化してしまっています。

金丸:それをアートという切り口でリブランディングするのが、舘鼻さんの考えですよね。

舘鼻:もちろん、簡単な話ではないですけどね。

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