~留学を思いとどまり日本で学んだ文化が、世界で評価される武器になった~
子どもの頃から「なんでも作る」が当たり前
金丸:ところで、舘鼻という名前は珍しいですよね。
舘鼻:歌舞伎町で『歌舞伎湯』という銭湯を営んでいた家系で。もとを辿れば本家は富山なんです。東京の銭湯は、富山県と石川県にルーツがある人が多いんですよ。
金丸:えっ、初めて知りました。何か理由があるんですか?
舘鼻:うちの祖父も、富山から上京してきた方の銭湯で修業したあと独立したんですが、兄弟や家族を呼んで手伝わせているうちに、北陸の人たちのネットワークが広がっていったんだと思います。一般家庭にお風呂が普及して、うちも銭湯を閉じましたが、その後ビルに建て替えて、今は父が管理しています。
金丸:お父様は銭湯を継がなかったんですね。ご両親はどんなお仕事を?
舘鼻:父は金融機関に勤めていて、堅い人です。僕が起きる頃にはもう仕事に出ていて、寝てから帰ってくる。なので、圧倒的に母と一緒にいる時間が長かったですね。母は人形作家です。シュタイナー教育で使われるウォルドルフ人形というのがあるんですけど、それを作ることを学んでいたところスカウトされ、講師になりました。もう40年のキャリアがあるので、今は先生と呼ばれています。
金丸:シュタイナー教育というのは、テストの点数で評価するのではなく、芸術や手仕事を通じて、子どもの感性や創造力を育てる教育法ですよね。
舘鼻:母はシュタイナー教育そのものではなく、あくまでも人形づくりの講師ですが、「好きなものや欲しいものは、自分で作ればいい」という考えでした。だから、おもちゃは買ってもらえないけど、素材ならもらえる。遊びたいおもちゃを自分で作ることからスタートしました。
金丸:それって、ある意味、ものすごく贅沢な環境ですよね。
舘鼻:今となってはそうだと思いますが、子どもの頃は普通に出来合いのおもちゃが欲しかったですよ(笑)。でも、「手で物を生み出すことが当たり前」という環境は、今につながっています。
金丸:AI時代だからこそ、物理的なものを生み出せる人の価値は、ますます高まると思います。でも、これまでの日本の学校教育が目指してきたのは、創造ではなく、予定調和じゃないですか。知識の詰め込み型だから、全員が同じ情報をインプットされて。
舘鼻:アウトプットも、あらかじめ正解が用意されています。
金丸:学校の「図工」「音楽」「美術」の授業って、本来のものづくりや歌うこと、演奏すること、絵を描くこととの乖離があって、学習指導要領にある一律の内容しか教えない。私は中学の図工で「イスを作れ」と言われて、「なんでイスなんですか」と質問したら、「何を言ってるんだ」という空気になりましたよ(笑)。



