SPECIAL TALK Vol.145

~留学を思いとどまり日本で学んだ文化が、世界で評価される武器になった~


世界的デザイナーを目指して行動する


金丸:そんな環境で育った舘鼻さんは、自分の将来をどのように考えていたのですか?

舘鼻:高校生の頃には、世界で活躍するファッションデザイナーになりたいと思っていました。

金丸:それは何かきっかけがあって?

舘鼻:正直、雷に打たれて「これだ!」と天啓を得るような経験はありません。ただ、人形づくりだけじゃなくて、なんでも手作りしていた母の影響は大きいと思います。僕や妹の服も手作りのものもありましたから。

金丸:舘鼻さんにとって、服作りは身近だったんですね。

舘鼻:そうです。母は彫刻家や画家ではないけど、子どもたちのために物を作るという、人に関わるものづくりをしていました。だから、その姿をずっと見ていた自分にとって、ファッションは一番自然で、身近な入り口だったんだと思います。

金丸:ファッションデザイナーになるにも、いくつかルートがあると思いますが、どうやってなろうと考えたんですか?

舘鼻:最初は留学しようと思ったんです。「ファッションの本場は日本じゃない。フランスかベルギーに行こう」と。当時、ベルギーの学校がとても有名だったので。

金丸:実際に、留学されたのですか?

舘鼻:いえ、しませんでした。ただ海外に行くだけでは、本場の人たちの真似をするだけになるかもしれない。それだと本場で生まれ育って、その国の文化を学んでいる人たちには勝てないんじゃないかって。

金丸:もっともですね。

舘鼻:日本人の自分が海外に出たときに、作品に投影できるようなアイデンティティを持ちたい。そのためには、日本の文化を知らなきゃいけないと思いました。それで、東京藝術大学工芸科の染織専攻で、日本のファッションである和装の文化を学ぼうと。

金丸:かなりの難関ですよね。

舘鼻:高校は美術系ではなく普通の学校だったので、中学を卒業して高校に上がる春休みから、美大受験の予備校に通いはじめました。

金丸:ターゲットを絞って行動に移すのが早い。ものづくりをしたいという情熱だけではなく、自分に何が必要なのかをきちんと理解されています。

舘鼻:でも、結果2浪しましたけどね(笑)。

金丸:私でも知っているくらいの狭き門ですから、2浪くらい、なんてことないと思います。でもその間、くじけることはなかったんですか?

舘鼻:予備校には5年間通いましたが、そこでできた友達の存在が大きかったですね。中学や高校の友達よりも長いこと一緒にいて、同じ目標を目指していましたから。

卒業制作をメールで売り込み続ける日々


金丸:藝大に入学するには努力だけじゃなく、才能も必要だというイメージがあります。

舘鼻:いや、努力すれば入れるものだと思いますよ。ただ、入ったからといって、成功が約束されるわけではない、というのが現実です。それに試験が難しすぎて、入学がゴールになってしまい、目標を見失ってしまっている人が結構いました。

金丸:舘鼻さんは目標どおり、和装を学ばれたんですか?

舘鼻:はい、伝統的なスタイルを模倣しながら。でも卒業制作で何を作ろうかと考えたとき、今はちょうど社会に出る一歩手前で、一番社会と接点ができるタイミングだなと感じて。だから「自分の表現」をしたいと思って作ったのが、ヒールレスシューズなんです。

金丸:えっ、大学の卒業制作だったんですか!?そんなに早くから注目されていたんですね。

舘鼻:いやいや、注目なんて全然されなかったし、学内でもまったく評価してもらえませんでした。先生方は面食らったと思いますよ。「今まで着物を染めていたやつが、わけのわからないものを作ってきた」って(笑)。

金丸:なのに、それが世界に届いたわけですよね。いったいどうやって?

舘鼻:単純です。自分で売り込んだんですよ。卒業制作の写真をメールに添付して、海外のファッション関係者にたくさん送りました。2010年で、まだSNSが今ほど普及していない頃です。その中のひとりからすぐに連絡が来ました。

金丸:それが、レディー・ガガの関係者だった?

舘鼻:そうです。専属スタイリストのニコラ・フォルミケッティさんです。実は、ちょうど彼女がワールドツアーで日本を回るタイミングだったので、チャンスはあるかもしれないと考えていました。彼女のようなミュージシャンは、現地のデザイナーやアーティストのファッション、装いを取り込むというのが、結構有名な話だったので。

金丸:では、売り込みが狙ったとおりに効いたと。すごいですね。「営業やマーケティングは、私の仕事じゃない」って言うアーティストやクリエーターって結構多いじゃないですか。でも舘鼻さんは、自分でマーケットを切り拓いた。

舘鼻:「いいものをつくっていれば、誰かが見つけてくれる」というスタンスの人は、今も多いです。だけど、そんな実例はほぼありません。僕は自分からアプローチをして仕事をつかんでいますが、いまだに「見つけてもらえた人」みたいに思われています。

金丸:ものづくりに限らず、自分の人生なんだから、受け身になったらダメですよね。

舘鼻:行動したもん勝ちだと思います。みんながやっていないなら、むしろやろうと言いたい。

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