SPECIAL TALK Vol.144

~日本女子テニスをもう一度強く。世界での経験をもって後進育成に励みたい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長
大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。日本ハンドボール協会会長。


トップレベルの選手には、ハングリー精神がある


金丸:日本人がテニスの世界ランキングでトップ100に入ると、ニュースになりますよね。でも、これがどのくらいすごいことなのか、いまいち分かりにくいのですが。

伊達:そうかもしれませんね。トップ100に入ると、メリットとして、四大大会の本戦にダイレクトインできるんですよ。四大大会の本戦に出られるのは、収入面でもすごく大きくて。例えばば90年代だと、本選に食い込めば少なくとも120万円くらいはもらえました。優勝賞金が1億円の大台に乗った、というのも結構話題になりましたし。

金丸:覚えています。でも、それでも全然少ないですよね。

伊達:過酷な競技ですからね。その後は賞金もどんどん上がって、為替の影響もありますけど、今は優勝すれば8億円、出場すれば1,000万円超え、という世界になりました。これに加えて、ほかの大会にも出て成績を残せば、プロとしてちゃんとやっていけます。女性でも経済的に自立できるプロスポーツとして、テニスには圧倒的な魅力があります。

金丸:それは大きな強みですね。プロとして生計を立てられるスポーツといえば、あとはゴルフくらいですから。ちなみに、今、日本人で100位以内は何人いるんですか?

伊達:それを聞かれるとつらい……。安定してランクインしているのは、大坂なおみ選手だけです。男子は島袋 将選手が100位前後につけています。島袋選手は早稲田大学を卒業後にプロに転向した、テニス界ではかなり珍しい遅咲きの選手なんですよ。

金丸:ということは、男女合わせて1人か2人だけ。厳しい世界ですね。

伊達:テニスはゴルフのようなシード権がありません。以前の成績や順位は一切関係がなく、ポイントは1年で消滅してしまいます。常に大会に出続けて勝ち続けないと、ランキングが落ちていく。シーズンは大体10ヶ月。ほんとにタフな世界です。

金丸:昔と今とで、選手に何か変化はありますか?

伊達:フィジカルが大きく変わりましたね。90年代は「背が高い選手は、俊敏に動けない」と言われていたんです。でも今のトップ選手は体格に恵まれていて、かつ速く動ける。トレーニングが科学的になったことも大きいと思います。ただ、変わらない部分もあります。

金丸:マインドですか?

伊達:そうです。最近の選手でも、ノバク・ジョコビッチやアリーナ・サバレンカが分かりやすいですが、すごくハングリーだし、逆境に強い。試合が長くなったり、敵側の観客が増えたりすると、逆に強くなる。育成をやっていて感じるのは、日本の子どもたちには、ハングリーさが足りないというか、ないんですよ。

金丸:それは大きな違いですね。

伊達:その原因はどこにあるのかと考えたとき、日本の子どもたちは「勝たなきゃいけない」と言われて育っているんじゃないかな、と思いました。あるいは、勝たないと親に怒られる。でもジョコビッチたちは「勝ちたい」「勝つ」。それ以上でもそれ以下でも何もない。

金丸:松岡修造さんも、ジュニアの育成について「技術的なことだけでなく、考え方についても12歳くらいから教え込まないといけない」とおっしゃっていました。問題意識が共通していますね。

ハードもソフトも整え、トップ選手を送り出したい


伊達:「これに勝たなければもう終わり。自分が自分でいられなくなる。だから勝ちたい」という極限の状態に、日本人は至りづらいんですよね。

金丸:それって、テニスやスポーツに限らず、あらゆることに言えますよね。「絶対に自分がやったほうがいい」「誰に止められようと、自分でやり切る」という気持ちがあるからこそ、成功するまで続けられる。そういう意味で、私は世界を目指すツアープロに限って言うと、日本の「実業団制度」は守られ過ぎていると考えています。

伊達:私も同じ意見です。テニスも実業団に所属して、国内リーグに出場していれば、安定した生活は送れます。

金丸:でもそれだと、多数の選手は救えても、飛び抜けたスーパースターを生み出すことは難しい。私は日本ハンドボール協会の会長を務めていますが、プロリーグ化を目指す上で、これは切実な問題です。

伊達:最近はジュニアの親御さんから「プロになれる保証はありますか」とよく聞かれるんですよ。

金丸:そんな保証、あるわけないじゃないですか(笑)。

伊達:「保証がある」と言われて、プロになった人なんていません。それでも夢のために挑戦するからプロになれる。私もそうだったし、世界中みんなそうです。プロになりたいなら、リスクを伴うからこそ生まれるハングリーさが必要だと思います。

金丸:国も「スポーツの産業化を」と掛け声は勇ましいんですが、覚悟が決まっていないと感じます。とにかく投資が少な過ぎる。スポーツ振興のためには環境だって、もっと整えないといけません。

伊達:環境ってほんとに大事ですよね。だから私は、本気で世界を目指す選手たちが出場できる女子の下部国際大会を2つ作りました。ハード面ではいろいろな方たちに呼びかけて、宮崎市のひなた宮崎県総合運動公園にあるテニスコートを約32億円かけて改修していただきました。日本のテニスコートは、約50%が「砂入り人工芝」と呼ばれるものですが、これは国際大会では認められていません。だから世界基準のハードコートを整備してもらったんです。いずれこのコート、そして新たに作った国際大会から、トップ100入りし、グランドスラムに出場する選手が出てくることを夢見ています。

金丸:伊達さんのように世界の頂点近くまで行った方が、制度の問題に踏み込んで発言し、自ら大会まで作っている。これは日本のテニス界の希望だと思いますよ。

伊達:私はテニスに生かされてきた人間ですから、日本の女子テニスがもう一度強くなってほしいと願っています。それが、すべての活動の原動力です。

金丸:「天才ではなかった」と話す伊達さんが育てる次の世代が、非常に楽しみです。私もスポーツ界の一翼を担う者として、協力して盛り上げていきたいと思います。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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