深夜1時のペンディング Vol.2

忙しい彼の短文LINE。「会いたい」の一言を飲み込む31歳女の葛藤

有栖川匠

恋愛には、待つことが付き物だ。

会える日を待つ。返事を待つ。言葉にしてくれる瞬間を待つ。

けれど、待たされ続ける時間は、愛ではなく不安を育てる。

相手を尊重することと、物わかりのいい女でいることは、とても間違えやすいから

──恋人を遠くに感じる深夜1時の恵比寿の空は、いつもより暗くなる。

これは、保留ばかりの恋と人生をもう一度動かし始めるための、恋愛のリスケの物語。

◆前回までのあらすじ

メーカーに勤める真理恵(31)は、商社マンであり、起業家、投資家でもある亮(りょう・33)と交際して半年。深夜に呼び出されても「大丈夫」と、笑いながら彼の予定を優先してきた。半年記念日のデートも、亮のシンガポール出張でキャンセルに。自分の気持ちをまた保留にしたまま、真理恵はひとりでレストランの予約をキャンセルしたが…。

▶前回:ドタキャンに深夜の呼び出し…。33歳商社マン彼氏との恋に未来はありますか?


Vol.2 寂しさの値段


月曜、7時12分。

出社の準備をしながら、私はクローゼットの中を見つめていた。

扉の内側には、タグのついたままのワンピースが掛かっている。亮さんとの半年記念日に着るはずだった、少しだけ背中の開いた黒いドレスだ。

予約していたレストランのキャンセルは、亮さんと会った翌日に早々に済ませた。

『申し訳ございません。規定により、キャンセル料が1万円かかります』

「はい。大丈夫です。キャンセルでお願いします」

予約していたレストランとの通話を切り、予約完了メールを削除しながら考えた。

“大丈夫”。亮さんと付き合い始めてから、一体何度この言葉を使っただろう。

1万円という金額がこの寂しさの値段なのだとしたら、それが高いのか安いのか分からなかった。

支払いなら、亮さんがすると言っていた。帰国したら埋め合わせをするとも。

だけど、私が欲しかったのはきっと、1万円でも代わりの店でもない。付き合って半年の記念日を、亮さんも同じくらい楽しみにしていてくれたという証拠だ。

結局、先週の金曜日、つまり半年記念日の当日には、亮さんからはLINEが届いただけだった。

『今から打ち合わせ』

短いメッセージのすぐ後に、シンガポール・チャンギ空港のラウンジらしい写真が続いている。

大きな窓。滑走路。飲みかけのコーヒーと、開いたノートパソコン。

人の姿は写っていない。亮さんらしい、要点だけの近況報告だった。

『了解!頑張ってね』

そう打って、最後に笑顔の絵文字をつけて返信をした。それ以来、亮さんからの返事は返ってきていない。

つまらない考えに蓋をするように、クローゼットの扉を閉じた。

この記事へのコメント

コメントする

コメントはまだありません。

深夜1時のペンディング

有栖川匠

恋愛には、待つことが付き物だ。

会える日を待つ。返事を待つ。言葉にしてくれる瞬間を待つ。

けれど、待たされ続ける時間は、愛ではなく不安を育てる。

相手を尊重することと、物わかりのいい女でいることは、とても間違えやすいから

──恋人を遠くに感じる深夜1時の恵比寿の空は、いつもより暗くなる。

これは、保留ばかりの恋と人生をもう一度動かし始めるための、恋愛のリスケの物語。

この連載の記事一覧