自分とYUMEが恨まれ、復讐される立場に…?頭を殴られたようなショックでともみは固まる。
「あなたたちにとっての正義が誰かにとっては悪になる。だから憎まれる覚悟をして自分自身の復讐に集中すべきです。それに、少女たちを救おうと思った瞬間から、あなたはきっとくだらない感傷に振り回される。今お見せしているこのデータに肩入れしてはいけない。復讐のための道具だと割り切らなければ、この計画は沈む」
私は沈没船に乗り込むつもりはないので、と、佐藤は空になったマグカップを持って立ち上がった。ポットから注がれる湯音、インスタントの粉を混ぜるスプーンの金属音に、ともみは、自分の頭の中も乱暴にかき混ぜられているように、酔いそうになった。
「それでも…苦しんで、助けを求めている子もいるかもしれませんよね」
混乱しながらも、ともみはこみ上げた言葉を口にした。ソファーに戻った佐藤が、ズズズッと大きな音でコーヒーを吸い込み、「まあ、それはそうですね」と、プロジェクターの画像を切り替えた。
「このデータの中に、真壁さんの支配に抗おうとしている人がいます」
ショートカットですっと涼やかな瞳をした少女のプロフィールが一面に拡大される。
『白石ミウ(17)/処置(予定):二重全切開・胸縮小手術の推奨/本人が美容整形に抵抗を示しているためトレーニーとして再登録。処置が終わるまでデビュー延期』
佐藤がポインターの赤い光で、美容整形に抵抗を示している、という文字をなぞった。
「胸縮小…って。胸を小さくする手術ってことですか?」
「白石ミウさん、日本人離れした体つきを持つ彼女は、歌声もソウルフルで将来を有望視されている練習生の1人ですが、何よりダンス能力が飛びぬけているらしく、次にデビューするガールズグループの候補に挙がっています。ただ、胸が大きすぎることが他のメンバーとのバランス、コンセプトに合わないと。
でも白石さんは真壁さんの要求を拒んだ。それでグループ全員のデビューが延期となっているようですが、今、相当悩んでるみたいなんです」
「手術を受けるか、受けないかですか?」
「いえ。彼女自身は手術を受けるつもりはないようで、このまま手術を強要されるなら事務所を辞めると言っている。でも真壁さんは白石さんの才能を失いたくはない。他の事務所に移られるのは絶対に許せないようで、かなり用意周到というか…2つのもので、白石さんをがんじがらめにしている」
「2つのもの――1つはきっと、契約ですよね」
契約時に弁護士を雇い確認するような保護者は、きっとほとんどいない。真壁のように世界的に成功しているプロデューサーに子どもが認められた。“子どもの夢が叶う”というフィルターで、提示されたものを疑わず、真壁の条件のままに契約を結んでしまったのだろうと想像がついた。
「その通りです」
ピッと電子音が鳴り、画像がまた切り替わる。
「ご覧の通り、彼女の契約期間は20歳まで。つまりあと3年の間に自己都合でやめた場合、これまでのトレーニングにかかった金を違約金として戻さなければならないですし、事務所を辞めてもさらに3年は他の事務所での芸能活動もできない。
素人ではまず気づけないでしょうね。非常にこざかしく、まどろっこしく書かれていましたから。この契約書を作ったのは、あの満島さんでしょうが…詐欺師としての才能はあるようですね」
満島とは、真壁の事務所の顧問弁護士の名だ。頭のてっぺんから足のつま先までハイブランドを装備したおそらく40歳前後という女性で、YUMEが真壁と契約書を結んだ日、弁護士として登場した佐藤の全身を一瞥すると「お噂はかねがね」と顔を歪めて嘲笑した。が、佐藤はニコニコと低姿勢を崩すことなく名刺を渡していた。
「そしてもう1つ。白石さんを縛っているのが、この子の存在です」
『神崎アリス(16)/体重50kg→目標42kg/食事制限指示:1日1食/処置済:下顎骨削骨』
「下顎骨削骨…処置済み…」
それはYUMEの手術と同じだった。神崎アリスの尖った顎に胸がぎゅうっと疼く。
「2人は10歳からアイドルになりたいという夢を追いかけ訓練をしてきた幼なじみであり、お互いのSNSには“心友”と記されています。2人の投稿をみると、やや依存関係にも見えなくはないですが、最早ただの仲間ではない。お互いのことを自分の半身のように感じているんでしょうね」







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