TOUGH COOKIES Vol.80

本人も気づかぬうちに支配される…信頼関係を悪用した「グルーミング」の恐ろしい罠

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。

▶前回:「離婚してください」20年連れ添った妻の決意。やり直したい夫が知らなかった“本当の理由”

赤坂の路地裏、老舗料亭が立ち並ぶ通りを2度ほど折れた先の雑居ビル。エレベーターが無いことを恨めしく5階まで上がり、ともみは『佐藤太郎法律事務所』のドアを全力で引いた。

ぎぎぃ、っと歪んだ金属音を立てながらようやく開いた扉の向こうから、図書館の奥に迷い込んだような古びた紙の香りと、今日はインスタントコーヒーの気配も鼻腔に流れ込んでくる。

「このドアやたら重くないですか?この前も思ったんですけど」
「ああそれね、最近、防弾ドアに付け替えたんですよ」

この頃は何かと物騒ですからねぇ、と相変わらずの笑顔を浮かべた事務所の主は、窓際のブラインドを下げ、薄暗くなった壁際の天井からロール式のスクリーンを引き下ろした。

今、防弾が必要な状況なのか?とは恐ろしくてとても聞けず、ともみは「どうぞ座ってください」促されるままに、小さなコーヒーテーブルを囲む4脚のソファーの1つに体を沈めた。不自然なほど艶があるのは合皮だからだろう。姿勢を変える度にギシギシと派手な音が立ち、お世辞にも座り心地は良くない。

インスタントコーヒーを入れ、戻ってきた佐藤弁護士は、ともみにその1つを渡すと、彼女の隣に腰を下ろしながらリモコンのスイッチを押した。正面に白い光が長方形に投射され、ともみはその光を見上げる。

「こういうものにはお金を使うんですね」

天井に備え付けられている最新のプロジェクター機器を指さすと、佐藤は「映画鑑賞が唯一の趣味なので」とあっさり流し、「では本題に入りますね」と、画面を切り替えた。

「ご依頼を頂いてから2週間ほどですが、そこそこの情報は集まりましたよ」

映し出されたのは、世界的音楽プロデューサー・真壁リオが率いる『リオ・プロモーション』の所属タレントたちの管理データだった。氏名、年齢、スリーサイズ、中でも――赤いフォントで記されている、“処置”の文字が一際、不気味に目を引いた。

「処置済みと、処置予定…」

「そう、処置とは整形を指すようです。時間も限られていましたので、未成年に限って調べましたが、保護者の同意のないまま整形を強いられた、または、まさに今、強いられようとしている所属タレントが3名いました」

『神崎アリス(16)/体重50kg→目標42kg/食事制限指示:1日1食/処置済:下顎骨削骨

『藤原ルナ(18)/処置済:顔面脂肪吸引・鼻尖形成済み/精神科通院歴あり(パニック障害)/次回契約更新時に違約金条項の追加を提示予定』

『白石ミウ(17)/処置(予定):二重全切開・胸縮小手術の推奨/本人が美容整形に抵抗を示しているためトレーニーとして再登録。処置が終わるまでデビュー延期

スクロールされる無機質な、10数名のエクセルデータに息を呑み、ともみは胸元を手で押さえた。胃の底から、冷たい吐き気がせり上がってくる。藤原ルナは半年ほど前にデビューしたアイドルグループのメンバーで、芸能界にすっかり疎くなったともみも知っているほどの知名度があった。

「この情報の信ぴょう性はどれくらい、ですか」

寒気で口内が乾き、喉が鳴る。佐藤は、「あ、コーヒー、飲んでくださいね」と、ともみの前に置かれたままのカップを指さしてから、自身は、年季が入り薄くなった新郎新婦の写真と『ハッピーウェディング』の文字がプリントされた引き出物らしきマグカップを手に取った。

「信じるも信じないもあなたの自由ですが、事務所のファイルをそのままコピーしたものですよ」
「でも、どうやって…」
「デジタルに記録した時点で、どんな情報も秘密ではなくなる。隠し通すことなんてできないんですよ。恐ろしい時代になりましたよねぇ」

恐ろしいのは時代ではなくあなたです、と固まったともみに微笑み、佐藤はずり落ちた銀縁の眼鏡を戻した。

「エンターテインメントの世界は進化しているようにみえて、まだまだ閉鎖的で古臭い。ボディポジティブや多様性が叫ばれるこの時代になっても、スリムで分かりやすい美人が良しとされる呪縛から逃れられていませんからね。

真壁さんは非常に巧みというか、なんというか。整形が当たり前とされる時代のムードを活用して、タレントたちをうまくコントロールしている。被害者という意識を持たせずにね」

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TOUGH COOKIES

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港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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