~アイドルの夢を諦めた先に、振付師という正解を見つけた~
「プロデュース目線」が、槙田流の振り付け
金丸:振付師としてのブレイクは、何がきっかけだったのですか?
槙田:ひとつ挙げるとしたら、FRUITS ZIPPERの『わたしの一番かわいいところ』です。あの曲は、コロナが明け始めたタイミングのリリースで、TikTokという媒体が世間に浸透してきたタイミングとちょうど重なったんです。
金丸:ダンスをやったことがない人も、TikTokにダンス動画を上げる文化が出てきた頃ですね。
槙田:そうです。そのタイミングがあってこそだと思いますが、結構狙ったとおりに受け入れられて、嬉しかったですね。
金丸:振り付けって、どういうことを考えながら作っているのですか?
槙田:私の場合は、結構プロデュースの視点が入っていると思います。そのアーティストの今のポジション、ファン層、どういう人が何を求めているかをリサーチして。
金丸:マーケットインの発想ですね。ダンスって難易度が高ければかっこいいかもしれないけど、難しすぎると一般人は踊れなくなる。
槙田:だから、難易度も考えるんです。「このグループは、簡単すぎると物足りないと思われるな」というときもあれば、老若男女みんなが踊れるようなものの方がいい、と考えるときもあります。
金丸:バランス感覚が大事なんですね。曲にはAメロ、Bメロ、サビという構成がありますが、ダンスはどういうふうに考えるんですか?
槙田:基本的には、サビが一番キャッチーで印象に残る振りになるように意識して作っています。ただ、そればっかりではないですね。
金丸:TikTokでも、サビじゃないところがバズることもありますよね。
槙田:おっしゃるとおりで、最近はそういうことがよくあって。例えば、曲の構成や制約を考えずに自由に作ったところが、すごくウケることもあります。自分がありのままクリエーティブしたものが世間に認めてもらえると、それもまた嬉しいですね。
金丸:音をどう取るかというのも大事ですよね。表拍だけじゃなくて、裏打ちとか。
槙田:めちゃくちゃ大事です。歌のリズムや言葉のニュアンスを体で表現することもあります。どの音を取るか、どの要素に重きを置くかというのが、振付師のセンスの見せどころなんです。
金丸:考えなきゃいけないことが、いっぱいありますね。
槙田:でも一番は、「女の子をかわいく見せたい」という気持ちが根本にあります。私自身アイドルが大好きで、ファンでもあるんですよ。しかも、どちらかというと男性目線で女の子たちを見ているというか。この子のこういう角度がいい、この子にこういうことをやらせたら素敵だろうなという目線で、自分が見たいものを作っている感覚です。
金丸:じゃあ、一番のファンが振り付けをしているようなものですね。それも、ただのファンじゃなくて、プロデューサー目線の。
槙田:アイドル時代からの第三者目線で見るクセが、そのまま今の仕事に生きていますね。
動画がバズっても収入増にならない問題
金丸:振付師の方とお話しするのは、今日が初めてなんですが、国内で振り付けを仕事にされている人って、どのくらいいるのですか?
槙田:メジャーなところから依頼が来るような振付師になると、100人はいないと思います。狭い世界というか、少ない人数で回しているという業界です。
金丸:私も振付師と聞いてパッと頭に浮かぶのは、ラッキィ池田さんとかパパイヤ鈴木さんくらいで、表に名前が出ている人は少ないという印象です。ところで、槙田さんが尊敬している振付師の方はいらっしゃいますか?
槙田:はい、います。仲宗根梨乃さんという方です。もともとはダンサーですが、少女時代の振り付けを担当されていて。私は少女時代のダンスを見て、振り付けの力を知ったし、すごく感動したんですよ。仲宗根さんはダンスだけじゃなくて、今はアメリカを中心にライブ演出にも関わられているので、私にとっては憧れであり目標です。
金丸:世界で活躍されている方なんですね。あと気になっているのは、振り付けの著作権のことです。例えばTikTokでバズったとしても、振付師に収入が入ることはないですよね?
槙田:ないです。振り付けには著作権がないので。でも、私もそこに問題意識を持っています。振り付けは基本的に依頼を受けたときにいただく報酬のみで、商業利用されても特にインセンティブはないんです。
金丸:それは変えなきゃいけない。日本は知的財産の分野で遅れを取っています。振り付けだって、知財として保護されて、利用されるたびに対価が得られるようにしないといけません。エンターテインメントだと、韓国は先進国ですが、日本と韓国では振り付けの事情も違うのでしょうか?
槙田:具体的には分かりませんが、韓国は振り付けのギャランティーが日本よりずっと高いと聞いています。それに、1曲まるごと1人の振付師が担当するケースばかりじゃなくて、複数の振付師が曲に対してそれぞれ振り付けを提案し、いいとこ取りをしてアレンジするやり方もあるみたいです。
金丸:それは、1人の振付師が曲全部の振り付けをした上で、ということですか?
槙田:そうらしいですよ。でも、たとえ自分の振り付けが2秒しか使われなかったとしても、提案料としてちゃんとギャラが支払われるとか。
金丸:なるほど。それはひとつのやり方ですね。
槙田:私としては、韓国スタイルが全部良いとも言えなくて。曲の最初から最後まで、1人の振付師として一貫して作品を作る、という日本スタイルは大切にしたいところですね。
金丸:自分の作品としての一貫性が担保されるということですからね。ただ、経済的な問題は解決しないと。作詞や作曲の世界は、著作権で一生分稼いでいる方もいるじゃないですか。それと同じような仕組みを、振り付けにも作る必要があると思います。



