ミチの元恋人のメグは、TOUGH COOKIESの大切なお客様でもある。ミチとの別れにも立ち会ったこともあり、ずっと気になっていたのだ。
「定期的に連絡は来るよ。まだ片付いちゃいないけど、リリアの居場所まではたどり着いたらしい」
リリアとは、メグがアフリカの内戦地域で、女児が通える学校を作るプロジェクトに関わった時に出会い、妹のようにかわいがっていた少女だ。
しかし、メグがリリアを取材の中心人物として取り上げ、その記事が世界中に配信された直後、リリアは消えた。女児が教育を受けることを好まない勢力に拉致されたのか、結婚させられそうだった祖父ほど年齢の男性の元へ送られたのかと様々な憶測が飛び交う中、必死で捜索を続けたメグだったが、その行方を突き止めることができないまま、日本へ戻ってきた。
自分を責めて衰弱していくメグを、TOUGH COOKIESに呼びよせたのは光江だった。そして『もう二度とミチとは会わないこと』を条件に、リリアの居場所と救出するための伝手を渡し、それを受け取ったメグが旅立っていったのが、もう3ヶ月ほど前になる。
旅立つ前にメグに愛を告げられたミチは、その告白を断った。けれどメグはミチに惚れ直してしまったらしく、「戻ってきたらミチをまた振り向かせてみせる」と、ともみとルビーの前で宣言して出国したのだ。そのことをミチは知らない。
メグのその宣言をルビーはどんな気持ちで聞いていたのだろうか。ルビーのミチへの恋心を知った今、メグの行方と動向は、ともみにとっても色んな角度から気になるトピックだ。
「人身売買の組織に拉致されて、イギリスへ密出国した船に乗せられてたけど今は保護されたらしい。国家レベルの交渉が始まったらしいが、解放されるまでにはもう少し時間かかりそうだと言っていた。
リリアは組織にとって商品だったことが幸いしたのか、食事は与えられていたし、体に危害は加えられてなかった。それがわかっただけでもボス…光江さんに感謝したい、とさ」
ミチの詳しすぎる情報に、メグからの連絡が頻繁に来ているのだと想像がついた。
「ほんとにもう、メグさんへの気持ちはないんですか?メグさんが戻ってきたら、よりを戻す可能性とか…」
「ねえな。今回の騒動で改めて痛感したし。メグは、闘いの中でしか生きられないんだってことを」
ミチは洗ったばかりのグラスを小気味よく磨きながら、視線を落としたまま言った。
「闘い?」
「弱者、っていう表現は好きじゃねぇけど、理不尽をくらってる人たちのために闘い続ける。もちろんその人たちのためもあるんだろうが、アイツの場合、それが自分自身の存在価値そのものっつーか…それを奪うと、窒息死するって感じだな。元々、そんなメグが誇らしかったし、そのうちオレもこの店を離れて、アイツについて回る生活になるんだろうなと思ってたけど…変わるもんだな」
凪いだ口調に、ほんの少しだけ苦味が混じったような気がして、ともみは聞いた。
「変わったのは…なぜですか」
ミチの視線が、すっと遠くに泳いだ。
「なぜ…か。なぜだろうなぁ。まぁ、たぶん、オレにもこの街に…」
ポツリ、ポツリと自分自身に確かめるように呟いた言葉が止まり、穏やかな瞳が自分に向けられた不意打ちに、ともみの心臓がまた跳ねた。
TOUGH COOKIES
SUMI
港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが
その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。
そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。






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