港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
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西麻布交差点から5分ほど歩いた場所にあるBAR・Sneet。30年近くこの街の全てを見つめてきたこの店の経営者が、日本のみならず世界中の大物たちから頼られる、西麻布の女帝・光江だと知る人はそう多くはないが、実はこのSneetの個室から、日本や世界を動かす政策や取引が生まれることは少なくない。
細部にまでこだわった室礼。見る人が見れば、壁にかかる絵画や調度品の価値に息を呑むはずだ。例えば、カウンターにさりげなく置かれている一輪挿しさえ、オークションハウスのカタログを飾るべきマスターピースだったりする。
それでも店の雰囲気はいたってカジュアルだ。会員制や紹介制ではなく誰もが訪ねることができるし価格も良心的。なのに治安も客層も守られているのは、「うちの番犬は目と鼻が利くからね」と光江が誇る、190cm超えのマッチョな強面、ミチが店長だからだ。
番犬の“センサー”に引っかかった人物は決してSneetに入れない。今夜も2組ほどの入店を断ったミチは、カウンターの中にある小さなキッチンで、鍋の火加減に気を遣いながら、試作中のスパイスカレーを無心に頬張るルビーをちらりと窺う。
来店の連絡もなく現れ、カウンターの端から2番目、いつもの席に陣取ったルビーは、先ほど実の母に別れを告げてきたばかり、らしい。
「いや、待って。マジうまいんですけど、これ」
スプーンの止まらないルビーの、いつもの通りの食欲に安心し、空になりそうなルビーのジントニックのグラスを見たミチは、今のカレーにはモヒートの方が合うだろうと、次の一杯を作り始めた。
「ねえ、これ新作だよね?ガッツリスパイスが効いてて、チキンが口の中でほろほろ~って崩れてく感じも最高なんですけど…!何ていうカレー?」
「スリランカ風チキンカレー。添えてるその白いやつはココナッツのサンボルっていうんだけど。ルゥに混ぜると味変になるぞ」
さん、ぼる?とルビーが素直にカレーに混ぜて口に運ぶ。シャリシャリと小気味のいい音が響いたかと思うと、ぱぁっとその顔が明るくなった。
「なにこれ、楽しい!甘いのに、酸っぱくて、別の辛さになった感じ。あ、ヤバい。これ、永遠に食べられちゃうやつじゃん。何入ってるの?」
すりおろしたココナッツに、玉ねぎと唐辛子、そこにライムを搾ったもので、日本でいうと薬味や和え物に近いものだとミチが答えると、ルビーは心から興味深そうに頷きながら、パクリともうひと口食べた。
「これマジで好き。超好き」
「合格か?」
「うん、超合格」
満面の笑みでお代わりをねだられ、ミチは“スリランカチキンカレー”を正式メニューに入れることに決めた。新作の試作は必ずルビーに食べてもらい、反応が良ければメニューに加える、それがルールだ。
「ミチ兄、なんで笑ってるの?」
ミントたっぷりのモヒートをルビーに出したタイミングで聞かれ、ミチは自分が笑っていたと知る。





この記事へのコメント
って事は最後ルビーの父を光江さんが呼んで来そうな予感。
明美さんがその時既にルビーを一番に考えていたならDNA鑑定で親子関係を明らかにした上で養育費を請求するとか出来なかったのかなと。ハーグ養育費条約により国際弁護人不要で手続きも無料で出来るケースも多いのに。