港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「恋をしなければ、生きられない…」恋愛依存症の母を持つ娘の苦悩とは
Customer 7:小酒井明美(こさかいあけみ・44歳)/ルビーの母親
「明美さんは、ルビーが言うように本当に…男性を選んで、幼いルビーを捨てたんですか?」
ともみは、明美を断罪する気はなかった。それでも、幼いルビーがどれだけ寂しく、哀しい日々を過ごしたのかを思わずにはいられず、つい言葉が尖りそうになってしまう。
「ルビー、私が言い過ぎたら止めてね。あと、聞くのがつらくなったらすぐに教えて」
ルビーはただ小さく頷いた。いつもは太陽を向くひまわりのような女の子が、ともみと明美の視線から逃げるようにうつむいたまま。それがともみの胸をまた、軋ませる。
それでも、というより“だからこそ”、ともみはただのお悩み相談なら立ち入ることのないところへ踏み込んでいく。
「ルビーに今まで言えなかったこと、伝えてこなかったことはありませんか?」
明美と別れた時まだ6歳だったルビーが、別れの理由を正しく理解できていない、もしくは大人たちが故意に伝えなかった可能性は高いのではないかという希望をこめたともみの質問に、明美はほんの一瞬、虚をつかれたような顔をしたが、すぐに大きく微笑んだ。
「そんなの、沢山ありますよぉ~。何から話せばいいかわからないくらい沢山。でも一番は、ずっと愛してる、かな、やっぱり」
「…ふざけんな。愛してるって言葉にゾッとしたの、はじめてなんですけど。ふざけんな。愛してる、なんて……アンタが使っていい言葉じゃねーんだよ」
「やっぱり…そうだよね、ごめん」
えへっと微笑んだ明美の謝罪に、ふざけんなという唸り声が聞こえたかと思うと、2度目のふざけんな!は叫びになった。カウンターを飛び出しそうになったルビーを、ともみが羽交い絞めで抑える。自分の瞬発力も捨てたものじゃないなと思いながら、ともみは聞いた。
「…なにするつもりだったの?」
「…わかんない」
「暴力も乱闘も絶対ダメ。言葉なら、何言っても許すから」
「……はい。ごめんなさい」
ルビーはシュンとした様子で、背中から(必死に)しがみついていたともみにくるりと向き直ると、ギュウッと抱きしめた。長い腕にすっぽりと包まれたともみは改めて体格差を感じながら、ルビーの背をゆっくりと数回撫ぜた後、その体を抜け出した。






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