Q1:男が結婚するのを拒んでいた理由は?
駿と出会ったのは、友人の紹介だった。20代で起業した駿は若き経営者として成功していて、家は虎ノ門のタワマンで、車は高級車に乗っている。
毎晩会食という名の予約の取れないレストランを巡るほどの美食家で、相当遊んでいたと思う。
でも私が出会った当時は、真剣に彼女を探していたらしい。
「由梨ちゃんは、どういう人がタイプなの?」
「私は、大人っぽくて頼れる人が好きです。駿さんは?」
「僕は真面目な人かな。あと、派手に遊んでいるタイプよりも、落ち着いている人が好き」
一応、最初から“紹介”というテイだったので、お互いありか無しか、すぐに判断できた。そのおかげで何度か食事へ行ったあと、彼の家へ行き、そのまま付き合うことになった。
駿と交際が決まった時、正直に言うと私はホッとした。経済的な面も含めて“一生安泰“という未来が見えたからだ。
私自身、大手日系メーカーの経理部で働いている。別に人のお金に頼る必要はないけれど、安定は大事なこと。今後結婚して子どもを作るとなると、綺麗事ではなくある程度の経済力は必要となる。
ただ、交際してすぐに結婚の話になると思っていたのに、半年が経ち、1年が経っても駿の口から、“結婚”の話はまったく出てこなかった。
「駿は、結婚とか考えたことある?」
痺れを切らして、私から聞いたことがある。しかし駿の口からは、信じられない答えが返ってきた。
「俺、縛られるのが嫌で。たぶん結婚とかはないかな」
この時の私が、絶望という名の奥底にまで気持ちが落ち込んだのは言うまでも無い。
でも言われてみれば、こんなにも駿の家へ通っているのに、合鍵さえ持っていない。
「不便だから、鍵もらえると嬉しいんだけど…」
私が聞くと、駿は若干面倒くさそうに本音をぶつけてきた。
「家に勝手に入られるの、好きじゃないんだよね」
それを言われると、何も言えなくなる。
「そっか…わかった」
“惚れた方の負け”とはよく言ったもので、私は駿が好きだったから「結婚がなくても、鍵をくれなくても仕方ない」と、どこかで諦めた。
結局私が駿に合わせる感じで、ダラダラと交際が続いていた。
でもそのモヤモヤも、2年が過ぎる頃にはどうでも良くなってきた。付き合っていることが当たり前で、もはやケンカもしない。
会ってもすごく話すわけではなく、お互い一緒に家にいても、別々に好きなことをする。そんな関係が心地よく、すっかり落ち着いていた。
しかし去年の誕生日、私はどこか期待していた。
― さすがにそろそろプロポーズだよね?
しかしそんなこともなく、気がつけば交際3年になった。
― この関係、どうしようかな。
私だって、良い年齢だ。色々と考えなければいけない。別れて次の人を早く探すべきか、このまま駿を信じて時が来るのを待つべきか…。
駿から福岡旅行に誘われたのは、そんな、もやもやと悩んでいたタイミングだった。








この記事へのコメント
しかしそんなこともなく気がつけば交際3年になった。
しかししかして、しかしの使い方がちょっと変だよ。
頼むでしかし。