A1:愚痴が多い子だなと思っていた。
美沙とは、昔から仲良くしている由佳の紹介で出会った。「可愛い子がいるから紹介させて」と言われ、僕もちょうど彼女を探していたので会うことになった。
由佳は「行かない」と言うので、最初から二人で会うことになる。
店選びは悩んだけれど、自家栽培の野菜が中心のコース設定で雰囲気も良く、女性のツボを押さえたような、外苑前にある『プレヴナンス』を予約した。
どういう子が来るのか少し緊張しながら待っていると、店員さんに案内された美沙がやって来た。
「美沙、さんですよね?初めまして。孝之です」
「初めまして。美沙です」
小柄で愛らしく、可愛い雰囲気満載の美沙。年齢は28歳で35歳の僕より7歳年下だと聞いていたけれど、もっと若く見える。
初対面のため、二人とも何から話せば良いのかわからず、一瞬の沈黙が生まれてしまった。
「緊張しちゃいますよね、急に二人なんて。とりあえず、何飲まれますか?シャンパンで良いですか?」
積極的に話しかけて、まずは仲良くなれるように試みる。
「もちろんです!ありがとうございます」
「美沙さん、普段お酒は飲まれますか?」
「はい。特にシャンパンが好きで」
「そうなんですね!じゃあ今日の店選び、間違っていなかったですね」
店のおかげで美沙も笑顔になり、さらに美味しい食事が進むにつれて、どんどん饒舌になっていく。
「さすがですね。孝之さんって、グルメなんですね」
「仕事柄、会食が多くて」
美味しい店は、知っている方だと思っている。
それよりも、あまり美沙の前情報を由佳から聞いていなかったので、僕は色々と質問をしてみることにした。
「美沙さんのお仕事は?」
「私は、損保です」
「そうなんですね。新卒から?」
「はい。でも転職したり、結婚して退社したりで周りがどんどんいなくなっていき…最近、寂しいんですよね。特に女性の同期は、半分以上が辞めてしまって」
「そうなんですね」
ただ、僕の聞き方が悪かったのだろうか。ここから急に、美沙は愚痴っぽくなった。
「その分、残った女同士のマウント?みたいなものが激しくなっていく一方で」
「そんなことがあるんですか!?」
女同士の争いは大変だとよく聞く。しかしこれが、初デートでする話題なのだろうか。
「男性にはないかもしれないですが。『次は誰が結婚するのか!』みたいな牽制のし合いがあるんです」
― ちょっと面倒だなぁ。
そう思いながらも、もちろん顔に出すわけにはいかない。だから適当に相槌を打ちながら、ふんふんと聞いていた。
しかしそれでも、美沙の話は止まらない。
「もちろん、結婚したあとも辞めずに活躍している人もいますけど…。ただ結婚したら、『次は誰が出産?』と」
「女性は大変ですよね」
ここまで言い切ると納得したのか、美沙はようやく話を変えてくれた。
「ありがとうございます。ちなみに…孝之さん、結婚願望はありますか?」
「もちろん、ありますよ。早く結婚して、家庭を築きたくて」
初デート、本来はこういう話をすべきではないだろうかと思ったが、結局デートらしい会話はこれくらいで、あっという間に食事が終わる時間が来てしまった。
そしてデート終盤で、次の食事へ誘ってきてくれた美沙。
「そうなんですね!良かった。あの…良ければ、またお食事ご一緒させて頂けませんか?」
今日はほぼ美沙の愚痴と相談だけで終わってしまったので、僕としても、もっと美沙のことを知りたいと思う。
だからもう一度、食事へ行くことにした。
しかし二度目のデートで、僕は完全に彼女を恋愛対象から外すことになる。
この記事へのコメント
美沙の陰気?ネガティブな人柄はあまり男性からは好かれないと思う。 ただ孝之も穏やかで優しい仮面の下は気難しい性格っぽいから、なかなかいい女性とのご縁は無いのかもしれない。
それを事前に阻止するためにも孝之は妹がいる云々の話した時に「女性から相談モードで来られると恋愛対象として見られなくなってしまう」と言えばよかった。