「……まりか、久しぶりだね」
「何しに来たの?」
玄関に立つ彼は、いつも通りの少し無造作なヘアスタイルに、白Tとデニム。だけど、何となく表情が違って見えた。
「この前は、ごめん。本当に。ちゃんと話したくて。ってか、ちゃんと付き合いたいと思ってる」
「え?」
唐突すぎる言葉に面食らいながらも、私は彼の目から目を逸らせなかった。
「ちょっと、颯斗。とりあえず外行かない?」
あのまま部屋で話を続けたら、きっと、泣いてしまう。私はバスルームの鏡でささっとリップだけ塗り直し、颯斗をマンションの廊下へと押し出した。
向かったのは、六本木の焼肉店『士士』。
「まりか、ここのハラミ好きだったよね。僕の分も食べていいから」
「…ありがとう。でも、大丈夫。食べたかったら追加で注文するし。一緒に食べよ」
厚切りのタンや、ほぼレアで食べられるシャトーブリアン。私が好きなものばかりを、さりげなく頼んでくれる。
「コースじゃなくてアラカルトがいいのとか、ちゃんと覚えてるの、ずるいよね」
「好きな人の好みは忘れないでしょ、普通」
さらっとそんなことを言う颯斗に私は苦笑いしながらも、ちゃんと胸はドキドキしていた。
「まりかも気づいてたよね。僕には他にも会ってる女の子がいたのは。でも、もう全部終わったから」と颯斗が切り出す。
「そう…なんだ」
他の女性の存在は気づいていたが、いざ彼の口から聞かされると嫌な気持ちになる。
私と同時期に、彼の胸に抱かれていた子がいるなんて想像するだけで、胸が苦しくなる。
「でも、ちゃんと整理してきた。まりかと連絡が取れなくなって焦って気づいたよ…僕にはまりかが必要だったんだって」
まっすぐに向けられる目線が、いつもより真剣に見える。
「あのさ、颯斗。結婚とかって考えたことある?」
私は、とっさに「結婚」という重い言葉を口にし。回答に悩むだろうと思ったが、意外にも颯斗は即答した。
「あるよ。もちろん」
「意外。そんなこと、口にしたの初めてじゃない?」
「うん。そうだね。なんていうんだろう…まりかとならずっと一緒にいたいなって思う。離れて実感したよ」
この記事へのコメント
別に年の差は関係ないと思いますが、颯汰の今までの言動からまりかを本命視するとは全く思えなかったのがちょっと会わずにいただけでいきなり変わるとか、薄っぺらい話だなと感じました。子供は欲しい38歳が、今恋愛したいのか結婚したいのか「自分の本音が見えない」とか悠長に悩んでるのも現実味ないです。