A2:初デートでは、シリアスなものは避けるべし。
出会いから2週間後、約束通り映画デートをすることになった。しかも彼は事前にオンラインで席を押さえてくれており、そのスマートさに感動する。
― あれ?映画館デートなんて、いつぶりだろう…?
記憶を遡ってみても、軽く3年はしていない。最後に映画館へ男性と行ったのは20代だったと思うので、33歳の私にとって、30代初の映画デートとなる。
少し緊張しながらも、当日、映画館が入るビルの下で待ち合わせをした私たち。先に着いて待っていてくれた大貴が、爽やかな笑顔で出迎えてくれた。
「じゃあ、行きましょうか」
「チケット、ありがとうございます」
「最高の席、用意しておきましたので」
その宣言通り、大貴が取ってくれていたのは気合が伝わってくるような、真ん中の列の中央の席だった。
初デートで中央席を取るあたり、下心もなく、純粋に映画を楽しみたいのだろう。
しかしチケット代のお礼として席に着く前に売店へ寄ったのだけれど、そこで私はひとつ、価値観の違いを知る。
「大貴さん、ポップコーンの味は何派ですか?」
「僕、実は映画は集中したい派で。普段は何も食べないんです」
「え?そうなんですか!すみません、なんかお付き合いさせちゃって…」
「いえいえ、今日はデートなので。ちなみにポップコーンはキャラメル派です」
― もしかして、隣でポップコーンの音を立てられると気になるタイプ!?
そう思うと、一口一口、ポップコーンを口に運ぶたびに非常に気を使う。元々大きい音など立てないけれど映画を鑑賞中、ほぼポップコーンを食べられずにいた。
しかし、これだけではない。
映画が想像以上にシリアスな内容で、私も大貴も、映画が終わった後しばらく黙り込んでしまった。
そしてエンドロールが終わった後も、動けずにいる大貴。「さすがにそろそろ…」と思って促すとようやく動き出した。
「大貴さん、そろそろ出ませんか?」
「あぁ、そうですよね。ちょっと色々と考えちゃって」
「そうですね。なんか、ズーーーンっとくる映画でしたね」
外へ出ても、お互い何となく黙りこくる。
「…ちょっと気分転換に、お茶でもしますか?」
「そうですね」
しかし日曜の銀座なんて、混んでいるに決まっている。どこへ行っても満席で、私たちはしばらくカフェ難民になってしまった。
最初の数軒までは良かった。けれども正直、この暑さで街を歩き続けるにはしんどい。適当にどこでも良いので入りたいと思い提案してみるものの、大貴はこだわりが強いらしく、やんわり否定されてしまった。
「なんか…すみません」
「全然です。週末の銀座は混んでいるから、仕方ないじゃないですか。私はどこでもいいですよ。こことか、空いてそうじゃないですか?」
「うーん、せっかくなら行きたい店がいいなと思って」
― そこまでこだわる必要、ある?暑いんだから、どこでも良くない?
ようやく私たちがカフェへ辿り着いたのは、結局30分後だった。しかもカフェに着いてからも、熱く映画のことを語っている大貴。
「あずささんは、全体を通してあの映画、どう思いました?」
「うーん…すごく深かったですね」
ハッキリ言うと、意味がわからなかった。しかし大貴はとても深刻そうな顔をして、考察を一生懸命述べている。
「最後のシーンの意味、僕的に考えたんですけど」
「あのシーンは、意味不明でした」
「そうですか?」
― あれ?何か価値観が違うかも?
映画館デートは、意外に難しいのかもしれない。
お互いの潜在的な文化的価値観が露呈するし、合わない場合この考察時間は結構つらい。
そして何より、シリアスな映画を好きな時点でハッピーエンドしか興味のない私とは話が合わないし、カフェへのこだわりを見ていても相当頑固そうだ。もう映画のことに対して興味のなさそうな私に対して一方的に考察を話している感じからも、彼の本性が見え隠れしている。
「あずささん、今夜のご予定は?良ければこの後、お食事でもいかがですか?」
「行きたいのですが、今夜は約束があって…」
この曖昧な気持ちのまま、そして微妙なテンションで食事をするのはちょっとしんどい。
― ちょっと神経質で、疲れそうだな…こちらも気を使うし…。
そう思って丁重にお断りしたものの、結局これ以降何となく連絡を取るのが億劫になり、自然に終わってしまった。
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この記事へのコメント
前のめりになって「いつにします?」と言ったあずさも悪い。